2154EBウイルス 改訂第3版
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149部や急性虫垂炎の炎症組織ではまったく検出されなかった.このため,EBV感染細胞は,UCとCDに共通のIBDの病勢と関連して炎症細胞浸潤の強い病巣部に出現するものと考えた.しかし,このEBVの感染がIBDの病因に関与するものであるのか単なる2次的なものなのかは,未だ明確ではない. このIBDにおけるEBV感染については,筆者らの報告の約1年後に,Spiekerらにより,ほぼ同様の結果が報告された16).彼らの検索では,特に活動期のUCにおいて,EBV陽性Bリンパ球が大腸粘膜内で観察され,溶解感染関連遺伝子産物のBZLF1蛋白質陽性であることから,ウイルス粒子の産生もあるものと推測されている.さらにその後,Dayharshらは,IBD症例に発生したリンパ腫18例の検索において7例がEBV陽性(EBER1,2 ISH法)であったと報告した17).EBV陽性の7例中6例は免疫抑制薬(6—MPあるいはアザチオプリン)で加療されていたのに対し,EBV陰性の11例では免疫抑制薬の使用は1例のみであった(p=0.01).対象と同期間の免疫抑制薬使用IBD症例は約1,200例とのことから,発生頻度は低いものの,IBD病変局所のEBV陽性リンパ球は免疫抑制状態で日和見リンパ腫を生じ得るものと考えられる.また,定量PCR等を用いたRyan JLらの最近の報告では,EBVは正常胃粘膜では検出されないが,胃炎粘膜の46%,正常大腸粘膜の44%,CDの55%,UCの64%で検出されており,その感染細胞はBリンパ球と考えられている.これは,これまでに述べた筆者らの成績を支持するものと言える18).6おわりに EBV感染症の研究は,感染レセプターの存在や潜伏感染の機序が明確なリンパ球関連疾患の分野が主流であり,胃がんについての検討も多くはなく,さらに胃がん以外の消化管疾患についての報告はごく小数である.しかし,本項目で述べたように,消化管は,EBVの初感染やその後の潜伏感染・再活性化において,ピロリ菌陽性胃炎や炎症性腸疾患などの背景のもとに,重要な舞台としての役割を有しているものと推測される.今後,ウイルス学的研究手法の発展により,EBVそのものや感染細胞株の検討のみならず,宿主消化管全体でのEBV感染の実態が解明され,消化管疾患の治療に新たな知見が得られることを期待している.文献 1) Kitayama Y, et al:Epstein—Barr virus—related gas-tric pseudolymphoma in infectious mononucleosis. Gastrointest Endosc 2000;52:290—291. 2) Chen ZM, et al:Epstein—Barr virus gastritis:an underrecognized form of severe gastritis simulat-ing gastric lymphoma. Am J Surg Pathol 2007;31:1446—1451. 3) Lavin AC, et al:Acute Upper Gastrointestinal Bleeding associated With Epstein—Barr Virus Reac-tivation in an Immunocompetent Patient. Am J Gastroenterol 2009;104:253—254. 4) Shukla SK, et al:Epstein—Barr virus DNA load and its association with Helicobacter pylori infection in gastroduodenal disease. Braz J Infect Dis 2011;15:583—590.12.消化管の慢性炎症図3 IBDとEBVUC,CD手術例の約5~6割.消化管病変部に限局し,おもにBリンパ球のEBV感染細胞が存在.腸管局所におけるEBV感染細胞がIBDの病態を修飾しているのかもしれない.(文献15より)カラー口絵17参照.CDEBER1EBER1+CD20cy
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