2172骨・軟部腫瘍-臨床・画像・病理 改訂第2版
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52*第1章 総 論1化学療法の目的と有効性骨・軟部肉腫に対する化学療法はこの30~40年の間に大きく発展し,肉腫に対する治療に大きな変化をもたらした.手術での局所制御のみでなく,化学療法による遠隔転移のコントロール,また術前化学療法による切除縁の縮小・機能の温存なども可能となってきている.骨・軟部肉腫に対する化学療法の意義は,微小転移巣をもつ高悪性度肉腫に対する根治を目指した集学的治療としての全身化学療法,微小転移巣をもつ可能性のある肉腫に対しての微小転移のコントロールと局所制御の向上を目的とした補助化学療法,そして根治が見込めない状態に対する症状緩和・生命予後の延長を目的とした緩和的化学療法に分けられる.骨肉腫,Ewing肉腫ファミリー腫瘍,横紋筋肉腫においては集学的治療・全身化学療法が必須である.多くの高悪性度非円形軟部肉腫に対しては補助化学療法が施行される.根治を望めないような進行例・転移例に対しては緩和的化学療法を施行するが,初診時転移症例に対しては化学療法が有効な場合は根治を望める可能性も残っており,強力な化学療法も選択肢に入れながら患者と治療方針を相談すべきである.低悪性度肉腫に対しては遠隔転移を起こす可能性が低いことや化学療法に対する感受性が低いことなどから,化学療法は一般的に適応とはなっていない.近年は一部のaggressive benign tumorにも局所コントロール目的での化学療法の有効性が報告されている.実際の化学療法の施行に際しては,骨・軟部腫瘍に対して有効性が証明されている抗腫瘍薬の種類が限られていることから,これらをいかに使用するかが鍵となってくる.化学療法が必須である骨肉腫,Ewing肉腫ファミリー腫瘍,横紋筋肉腫に対しては多剤併用のレジメンが確立されており,効果が最大限に発揮されるためにもできる限り短いインターバルで投与し,副作用対策も十分に行うことが重要である.補助化学療法に関しては,標準的なレジメンが完全には確立されておらず,原発腫瘍の種類や全身状態に応じて多剤併用から単剤の化学療法まで様々な治療方法が選択されている.緩和的化学療法は患者のADL低下につながらないように抗腫瘍薬の種類・用量を選択する.また高齢者に対しては,強力な化学療法は副作用の発生頻度も高く,副作用によって生命に危険を及ぼす可能性もあることから,その適応は慎重になる必要がある.実際に何歳までを化学療法の適応とするか,どの程度減量するかなどについては,まだコンセンサスは得られていない.抗腫瘍薬の効果を増強させる目的で,腫瘍近傍の動脈から抗腫瘍薬を投与することで局所制御を高める動注化学療法や,温熱療法・化学療法との併用療法などの試みも一部の施設で行われている.2悪性骨腫瘍に対する化学療法a)骨肉腫骨肉腫に対する化学療法は1970年代に導入が始まり,その結果5年無病生存率が10%程度から60~70%へと飛躍的に向上した.1980年代には化学療法の有効性を確認するためランダム化比較試験(RCT)が施行され,中間解析の時点で化学療法施行群に圧倒的なadvantageを認めたため,RCT自体が途中で中止となったことがある.これらの経緯からも高悪性度の骨肉腫に対する化学療法は必須であるといえる.レジメンに関しては当初はドキソルビシン(ADM)の単独投与やロイコボリン救援を用いたメトトレキサート(MXT)大量療法が一般的であったが,その後シスプラチン(CDDP)+ドキソルビシン併用化学療法を組み合わせることで,さらに治療成績が向上した.近年ではイホスファミド(IFO)の有効性が数多く報告され,これを併用したレジメンが散見される.わが国でも現在,骨肉腫術後補助化学療法におけるイホスファミド併用の効果に関するRCT(JCOG0905)が他施設共同で行われている(図1,表1).また,骨肉腫に対しては術前・術後の化学療法を行うNeoadjuvant化学療法が標準的治療となっている.術前の化学療法が有効な症例では,患肢温存・縮小手術も可能となり,また術前化学療法の効果は生命予後に相関し,術後のレジメン総 論第1章木村浩明・大塚隆信8化学療法

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