2172骨・軟部腫瘍-臨床・画像・病理 改訂第2版
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244*第3章 軟部腫瘍1概 念被膜を有しSchwann細胞への分化を示す腫瘍細胞よりなる良性腫瘍である.神経線維腫がneurobromatosis type 1(NF1)に随伴するのに対して神経鞘腫はneurobro-matosis type 2(NF2)に随伴する.これに対してNF2に伴うものは頭蓋内前庭部神経や脊髄根神経に多発する.神経鞘腫が全身に多発する神経鞘腫症(schwannomatosis)はNF2の一型であるとするものと,独立した疾患単位であるという説がある.神経鞘腫症の中には多発性の髄膜腫を伴うものもある1).神経線維腫と異なり悪性転化することはない.2疫 学全年齢に発生しうるが,30~60代に多い.性差はないが中枢神経に発生するものは女性に多く,放射線照射後のものは男性に多い.末梢神経に発生するものでは頭頸部および四肢の伸側に好発する.具体的には,神経根,頸部神経,交感神経,迷走神経,腓骨神経および尺骨神経に好発する.深部に発生したものでは後縦隔や後腹膜腔に巨大な腫瘤を形成する.3画像診断a)単純X線写真,CT:大きなものは非特異的軟部腫瘤として描出される.椎間孔レベルの神経根に発生すると圧迫性骨侵食により椎間孔が拡大し,CTではダンベル状の腫瘤を認める(図1).非造影CTでは,筋組織よりも低吸収を示す.陳旧型神経鞘腫(ancient schwannoma)ではまれに石灰化を伴う.b)MRI:辺縁明瞭な紡錘形をした大きさ5 cm未満の腫瘤である.末梢神経は周囲が脂肪組織で囲まれるため,神経鞘腫や神経線維腫では表面に薄層の高信号を認める(split-fat signあるいはfat-rim sign)2)(図2a).腫瘤の近位端と遠位端に末梢神経との連続を認めることがある(図2a,b).典型的には神経鞘腫では神経が腫瘤の辺縁部に存在し,神経線維腫では神経が腫瘤の中心を貫通する.しかし,太い神経でなければその位置関係を評価することは難しい.侵された神経の支配筋に萎縮を認めることがある.内部の信号はT1強調像で筋と同等である.しばしば,T2強調像で辺縁が高信号,中央が低信号を示し,標的徴候(target sign)として知られる(図2b).これは,神経線維腫に特徴的とされていたが,神経鞘腫にもみられる所見である3).T2強調像とプロトン密度強調像で,腫瘍内部に末梢神経の小束(bundle of fasciculi)に類似した多数の小輪状構造を認めた場合(fascicular sign)には,悪性末梢神経鞘腫瘍との鑑別に役立つ.陳旧型神経鞘腫や大きな腫瘤では,嚢胞変性,出血,壊死などの二次性変化をきたすことが多い(図3).造影剤により不規則な増強効果がみられるが,標的徴候のある症例では中央の低信号域がより強く増強される傾向をもつ.c)画像上の鑑別診断:神経線維腫,悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST),傍神経節腫,顆粒細胞腫,Morton神経腫,外傷性神経腫.4病理診断a)肉眼像:肉眼的に滑面は白色ないし黄色調を呈し大部分は5 cm未満である.大きな腫瘤を形成したものでは囊胞形成や石灰化などの二次性の変性を伴う.b)組織像:組織学的には神経外膜よりなる線維性被膜を有する腫瘤で典型例では,細胞成分に富むAntoni Aの部分と細胞成分に乏しいAntoni Bの部分よりなる(図4).Antoni Aの部分では紡錘形腫瘍細胞が束状に配列し,特徴的な核の柵状配列(nuclear palisading)を認める(図5).2つのnuclear palisadingがお互いに弓状に向き合ったものはverocay bodyと呼ばれ,神経鞘腫に特徴的な構造物である.Antoni Bの部分では細胞数が少なく紡錘形腫瘍細胞は特定の配列傾向をもたず,まばらな膠原線維を伴う.核分裂を認めることはほとんどなく,細胞異型も通常はみられない.変性の強い神経鞘腫は陳旧型神経鞘腫とも呼ばれ,腫瘍細胞は核のクロマチンが濃染性となり多形性も伴うので他の多形性肉腫との鑑別が必要となることがある(図6).陳旧型神経鞘腫では間質の出血および硝子化,囊胞形成,血管周囲の硝子化などの二次神経鞘腫瘍:A良性腫瘍19小田義直/福田国彦/木村浩明・大塚隆信1神経鞘腫Neurilemoma / Schwannoma

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