2174眼科研修ノート 改訂第2版
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第3章 眼疾患の診断と治療427予防医学Iアンチエイジングとして積極的に使われているが,血管障害をエンドポイントとしてみれば大規模研究において効果のエビデンスを出すことが可能となる.しかし“健康長寿”がエンドポイントとなると,なかなかしっかりとしたエビデンスを得ることができないのが現状である.ある介入を行った場合に通常80歳である寿命が90歳まで延びるなどという試験を行うことはなかなか難しいことは容易に想像がつくであろう.またこれらの研究が原理的に可能であったとしても,数十年かかる大規模研究の結果を待っていたのでは,自分たち自身が老いてしまいアンチエイジング医学の利益を享受することができない.アンチエイジング医学のもっているジレンマともいえる. 一方,早く導入しすぎると弊害も起きる.よい例が女性ホルモンによるホルモンリプレイスメントテラピーだ.加齢により女性ホルモンが減少するのであれば,それを補えばよいという発想に基づき行われた治療であるが,短期間の観察ではよい結果が多数報告され,アメリカにおいては1000万人の女性がホルモンリプレイスメントを受けたという.ところがご存じのようにWomen Health Initiative(WHI)による大規模前向きランダム試験によって,女性ホルモンの投与は心筋梗塞や乳癌の発症率を大幅に上げることがわかり,現在では適応を慎重に見極めた上でのみしか使われなくなっている.エビデンスに基づいて行うということは簡単であるが,実際の臨床応用には注意が必要なことがよくうかがえる事例である.4エイジングのサイエンス 複雑な生命現象に介入しようとするアンチエイジング医学の場合は,限られた研究に頼るのではなく,多数の研究成果から“これだけは間違いない”という仮説に従って行う必要がある.すべての理論は仮説にすぎないが,あくまで信頼確率の高い仮説を基本にアンチエイジング医学を行うべきである.現在,エイジングの仮説としては,ホルモン低下説,タンパク架橋説,不要タンパク蓄積説,遺伝子変異説,免疫低下説,など,様々なものがあるが,これらの仮説のうち,カロリーリストリクション(CR)仮説と,酸化ストレス仮説の二大仮説は,エイジングの仮説として多くの研究者が認めている仮説である(表1).これらの二大仮説は遺伝子レベル,細胞レベル,動物実験レベルで長寿をもたらす分子メカニズムがある程度解明されており,ヒトへの応用も部分的ではあるが試みられていて,現状では良好な結果が報告されている.もちろんその量的,時間的な点は議論がある.カロリーリストリクション仮説は食事の摂取カロリーを,通常の65~75%程度に減らすと長寿になるというものだが,逆にこれをやりすぎて50%などになると抵抗力が減少し,死に至ることもある.酸化ストレスコントロールも,やりすぎれば自分自身の抗酸化酵素の誘導が減少したり,脂溶性のビタミンによる弊害が起きる.どちらの方法においても最適な量というものがあり,量的時間的な概念は重要なポイントであり,常に頭に入れておく必要がある.5カロリーリストリクション仮説(CR仮説) アンチエイジング医学を実践するにあたり,その基礎として取り上げた二つのうち一つがカロリーリストリクション(CR)仮説である.詳細なメカニズムや詳しいデー表1 エイジングに対する二大仮説現在のエイジング仮説1.酸化ストレス仮説2.カロリーリストリクション(CR)仮説3.その他

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