2182睡眠の生理と臨床 改訂第3版
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ショウジョウバエには活動が減り,活動を促す刺激の域値が高まる状態があり,かつこの不活発な状態が急に変化し活発になる.不活発な状態を阻害すると,ハエはより長い時間不活発となる.またショウジョウバエもカフェインやメタアンフェタミンにより活発となり,高齢になると不活発な状態が細切れとなる.ショウジョウバエの不活発な状態はヒトの眠りとかなり類似している(Colwell,2007).ショウジョウバエではfuminという遺伝子が発見された(Kumeら,2005).この遺伝子の産物蛋白はドパミントランスポーターであり,この遺伝子に変異があるショウジョウバエは刺激への感度が高く,ひとたび活動を始めると活動が長く持続する.さらに通常のショウジョウバエに認める,眠りを奪うことで生ずるその後の眠りの増加を認めない.ところがこのfumin欠損ショウジョウバエは,眠らなくとも早死にしない.一方で睡眠時間が少なく短命なショウジョウバエも発見された.睡眠時間が通常の野生株の3分の1しかないものの,覚醒時の行動には野生株と差異がなく,睡眠を制限してもその影響をほとんど受けない短時間睡眠株(minisleep:mns)である.この変異株では膜の再分極や神経伝達物質の放出を制御する電位依存性K+チャネルのαサブユニットをコードする遺伝子(X染色体のShaker遺伝子)に異常のあることが判明した.そしてこのmnsは野生株よりも寿命が短い(Cirelliら,2005).またsleepless遺伝子にコードされる蛋白質(sleepless蛋白質)が欠損している突然変異体のショウジョウバエでは,日常の睡眠が激減し(最大85%),全く眠らない個体もいることを発見した.sleepless蛋白質の減少がわずかであった個体はそれほど深刻な影響は受けなかったが,断眠後の回復睡眠の時間が短縮した.なおsleepless蛋白欠損体においてはShaker蛋白質の濃度が減少している(Kohら,2008) 生物時計の出力蛋白の一つであるtransforming growth factor-αファミリーの蛋白はEGFR(Epider-mal growth factor receptor)以降のシグナル伝達の活性化に関係する.EGFRの活性化が光による概日リズムの周期を規制する要素の一つであるERK(extracellular signal-regulated kinase)活性を高めるが,最近になってショウジョウバエでEGFR以降のシグナル伝達が高まると,眠りが増し,これと一致するようにERK活性も高まることが報告された.さらにショウジョウバエでEGFR以降のシグナル伝達の構成蛋白であるRhomboidの発現を抑制させたところ,眠りが減少し,短時間の眠りが増すという,眠たいのに眠り続けることができないという,いわばヒトの不眠症で認めるような状態が観察された(Foltenyiら,2007).慢性の不眠症患者でGABAA β3サブユニットをエンコードする遺伝子にミスセンスが見つかったという報告もある(Hamet & Tremblay,2006).またニューロンのカルシウム量を調節する蛋白をコードする遺伝子と睡眠覚醒量との関連も指摘されている(Naidooら,2012). さらにすでに述べたが,時計遺伝子であるDEC2の点突然変異を有するヒトでの短時間睡眠(Heら,2009)のほか,Clock遺伝子の変異マウスA 睡眠関連遺伝子34眠りと物質5
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