2183循環器研修ノート 改訂第2版
4/16

581基本的な考え方 臨床トレーニングでは経験と勘の養成が重要である.しかし経験と勘のみに依存していると,診断や治療方針を誤ることがある.適切な判断のためには,理論も知っておかなければならない.ところが確立されたようにみえる理論も変化する.移ろいやすい現場の考え方に振り回されないためには,自分の研究テーマをもつことが大切である.2臨床専門医にとっての研究 専門医にとって研究の重要性は世界共通である.しかし論文執筆をどこまで求めるかは国により異なる.アメリカの専門医研修(循環器専門医)は3年間の一般内科の修了後に始まり,通常3年で専門医取得の権利を得る.専門医トレーニング中には少なくとも一つの臨床研究に参加し,査読つき雑誌に論文を報告することが望まれている.論文が重要なのはむしろ専門医取得後である.専門医研修生1.5人あたり1人の割合で配置される指導医については,学術活動に関与すること,特に査読つき論文,研究費取得,総説論文の執筆が資格要件である. 一方,ドイツとイギリスでは指導医であっても論文は不要である.しかしながらアカデミックキャリアを求める場合は,論文実績が必須である.日本循環器学会の新専門医制度は現在検討中であるが,専門医の更新にあたって学会発表や論文執筆が取得ポイントとして認定される予定である. 研究の結果は学会で発表し,論文として報告しなければならない.論文を書いてみると,それまで理解していたことが曖昧であり,主張がどのような根拠に基づくかを明確にしなければならないことに気づく.こうしたトレーニングは臨床医にとって貴重な経験であり,社会における「読む,書く,話す,考える」能力の練習となる.3臨床研究の必要性 臨床医の研究の第一歩は症例研究である.一例一例を大切にすること,未経験の症例に遭遇したら,これを学会に報告する.また,経験した症例を疾患概念から考察したり,概念を見直したりする.過去の症例報告も参照する.筆者は日本内科学会および日本循環器学会の理事長時代に,東京大学の大江和彦教授とともに「症例くん」という症例検索システムを作成した1, 2).これにより両学会の地方会で報告されてきた数万例に及ぶ症例を,瞬時に条件検索することが可能となった. 循環器研究の治療効果の判定には,検査値などのソフトエンドポイントではなく,死亡率や重大な心血管イベントの発生率などのハードエンドポイントとする無作為介入試験が望ましい.これには1991年に発表されたCAST研究が大きな影響を与えた.一般に心筋梗塞後の患者では心室不整脈が多い患者で予後が不良である.それでは心室不整脈を抑制すれば予後が改善するかというと,結果は逆だった.CAST研究ではIc群の抗不整脈薬を用いた群で死亡率C 勉強の仕方臨床医にとっての研究8DOs 「読む,書く,話す,考える」能力を身につけよう. 臨床研究に参加して,批判的に考える習慣を身につけよう.

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 4

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です