2183循環器研修ノート 改訂第2版
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第1章 循環器研修でのアドバイス59勉強の仕方Cが増加した.この経験から慢性の心疾患においては,ハードエンドポイントの重要性が認識された. しかしながら介入研究にも限界がある.ある研究で得られた結果が他の集団に該当するとは限らないからである.海外の文献に頼るだけでなく,日本人で検証してみなければならない.また,日本人のように心血管イベントの発生が低い場合には,介入研究は大規模となるため実施が困難である. そこで近年,次善の策として疾患レジストリが重視されるようになった.ビッグデータを用いると,介入研究に匹敵する知見を得ることができる.なお自施設の医療の質を検証するためにも,各医療機関で症例データベースを構築する必要がある.4個別医療の科学 医学がいかに進歩しても,眼前の患者に対して確定的に判断できない場面は多い.たとえば慢性疾患における治療効果は確率的である.スタチンが集団の心血管イベントを減少させることは事実であるが,一人一人についてはイベント発生の予防を予測できない.将来は患者をサブグループに分類し,薬剤反応性を基に治療することのできる医学を目指すべきであろう. 不確実な状況での医療上の判断は,医学のあらゆる面でみられる.救急医学の行岡哲男教授は,「「正しい判断」の呪縛から医療を解き放ち,「正しいと確信する判断」に基づくルールを整えて,よりよきものへと練り上げ,鍛え上げ創りかえることが必要」と述べている3).近代医学が進めてきた科学的医学だけでなく,患者の視点に立った医学研究がこれからますます重要となる.5社会との共創による医学研究 診断法や治療法の開発をする研究(トランスレーショナルリサーチ:TR)は国家的課題でもある.TRは研究者のみでは推進できず,産学官の連携が必須である.そのためには知的財産を確保したうえで安全性や毒性を評価し,適応症を決定しなければならない.従来の科学は専門的な個別学術領域において進められてきた.また横断的研究といっても既存の学術領域間にとどまっていた.これに対し,今日の科学研究には企業,行政,NPOなどの市民も参加する.研究者は透明性を確保しつつ,社会と共創的関係を築いて問題の解決を目指すことが重要である.6情報時代の医学研究 近年,医学研究でも情報爆発とネットワーク化が進行している.ゲノム研究においては情報科学の支援なしには研究できない.米国のオバマ大統領は,病歴,臨床検査,画像検査,治療反応性などを統合する医学研究政策を打ち出した(Precision Medicine)4).これは従来の医療が画一的に過ぎたことに対する反省である.Precision Medicineでは患者をサブグループ化し,より緻密な医療を目指している.同時にコンピュータが多数例の経験を機械的に学習することにより,診断や治療方針を自動的に行う人工知能の開発も進んでいる. 情報社会では望ましくないことも発生する.ビッグデータは基本的に後向き解析である.このため不確実な情報も生み出され,瞬時に拡散する.誤った医学情報に惑わされないためには,医師が臨床研究に参加し,批判的に考える習慣を身につけることが大切である.おわりに 医学は先人の築いた礎の上に成立している.しかし臨床医は先人の到達点から歩み始めるわけではない.各自がそれぞれの課題を抱えながら,先人の歩んだ道を再びたどるのが医師の人生である.臨床に従事していてもベッドサイドの経験から課題をみ

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