2189デジタル脳波の記録・判読の手引き
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1 記録88853脳波計でもデジタル脳波計でも電極箱以降の段階で機器回路内で生成されているので,電極箱から増幅器までの過程が故障していても較正波形は描ける.システムリファレンスは実データ記録の根本になるため,電極から増幅器までの信号連結と処理過程の故障の有無を調べるために,頭皮上のすべての電極で記録の最初にシステムリファレンス誘導で10秒以上記録を行い,すべての波形が正しく表示されているかを確認する(図1-1).もし,ある記録電極入力系が断線などして信号がないあるいはその増幅器に異常がある場合は,それぞれシステムリファレンス由来の波形のみあるいは異常な信号が表示される(第1部 1-1.総論:ベーシック(p.4),アドバンス 図1-1~図1-2(p.5~6)).[場面7] 技師は両耳朶基準電極導出(基準電極導出モンタージュ)で記録を開始する.その後開閉眼,質問などの賦活を行い,デジタル脳波計にコメントを適宜入力する.一般的解説 患者の状況に応じた適切な指示および適切なコメントの入力は,脳波所見と病態をリアルタイムで把握するうえで重要である.また判読医は検査技師のコメントなどを元に,記録中の状態を追体験しながら効率よく判読を進めることができる3)(第1部 1.記録の手順と注意点:サマリーコメント(p.4)).[場面8] その後,光刺激,過換気などの賦活を終えてしばらくすると,患者は入眠した.入眠後しばらくして,振幅の高い頭蓋頂鋭一過性波が出現した.そのため隣接する誘導の波形が重畳して,個々の波形が判別困難になった.技師は表示感度を10µV / mmから15µV / mmに変更し,隣接する誘導の波形を分離して表示する.一般的解説 表示感度は成人の場合は10μV / mmを標準とするが,若年者や軽睡眠時など高振幅成分が多い場合には15µV / mmや20µV / mmに表示を変更するなど,常に最も波形を見やすい状態を維持する必要がある(第1部 1-4.記録の最中の注意点:ベーシック 5)表示感度(p.17)).[場面9] さらに記録を続けていると,F3,C3,P3に振幅の大きな尖った陽性波が出現する.技師はモンタージュを双極導出に変更したところ,T3に陰性の位相逆転(phase reversal)を示す棘波を認めた.一般的解説 側頭葉てんかんでは,単極基準導出の際に基準電極となることが多い同側の耳朶電極にも電位が波及し,耳朶の活性化が起こることが多い.双極導出(縦連結・横連結)などにモンタージュを変更することで,側頭部の活動を的確に把握することができる(第1部 1-2.記録時のモンタージュの選択:ベーシック 両耳朶基準電極導出(p.6),双極導出(縦連結・横連結)(p.7~8)).このように,基準電極導出法と双極導出法の長所と短所を理解したうえで,両者を適宜組み合わせて記録を行うことが必要である4).双極導出法では縦(前後)方向および横(左右)方向の両者の連結双極モンタージュで記録を行う必要があり(第1部 1-2.記録時のモンタージュの選択(p.5)),モンタージュごとに少なくとも2分間程度の連続記録が必要である(第1部 1-4.記録の最中の注意点:ベーシック 1)記録時間(p.15)).[場面10] 記録時間が30分以上経過したので,技師は患者を起こしてから脳波記録を終了する(第1部 1-4.記録の最中の注意点:ベーシック 1)記録時間(p.15)).検査終了後,記録した脳波データをサーバーなどの電子媒体に保存し(第1部 1-4.記録の最中の注意点:ベーシック 1)記録保存(p.17)),検査報告書に必要事項や諸事象を入力する(第1部 1-4.記録の最中の注意点:ベーシック 6)被験者の観察(p.17)).その後,技師は脳波を再生して所見を見直す.質問の際に筋電図の混入を認め,脳波は判読困難であった.技師は高周波フィルタを120Hzから60Hzに変更したところ(図1-2),左側頭部の徐波を認めた.
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