2190精神科研修ノート 改訂第2版
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第4章 疾患ごとの診断と治療337CaseStudy人生行路と支援 数十年の経過をたどる重度精神疾患の方の支援には,ライフサイクルを重ね合わせた長期的視点をもつことが大切である.本項は,20歳発症の統合失調症をもつ男性Aさんの発症前から60代になった現在までの経過を記した架空ケースである.皆さんが,長期入院していた精神科病院でAさんの主治医になったと想定して読んでいただきたい. Aさん,60代男性(【図】参照).都内で生育,同胞には弟が1人いるが,すでに長らく没交渉である.母は若くして病死した.高卒後すぐに就職,21歳時,職場で被害妄想が出現し,父親に連れられて精神科初診となった.薬物療法で症状消褪したため,すぐに内服を中断,アルバイトを転々としながら単身生活を送っていた.20代半ば,30代初めに急性増悪のため入院歴あり.2回目の退院後は実家に戻り,父親の促しで通院を続けていた.30代後半に父親が死去するとすぐに通院を止めてしまい,ほどなくして幻覚妄想に左右されて自宅近隣の路上で他害行為に及んだため措置入院となった.措置解除後も引き取る家族がおらず,結局21年にわたる長期入院となった.60歳を目前にしてピア講演をきっかけに退院希望を表明するようになり,地域のグループホームに体験入所,福祉事業所に体験通所を繰り返し行って退院となった.退院後は就労継続支援B型事業所に通所して安定している.精神科通院に加え,50代半ばに発症した糖尿病のため内科にも定期通院している. 紋切型になってはいけないが,年代ごとの典型的な課題を知っておくことは役に立つ.20代は病状不安定で治療中断を起こしやすく,入退院を繰り返すことが多い.多くの場合,親が健在で,家族を含めた疾病教育が重要な時期である.30代になると病状が安定してくる一方,障害が明確になる.高齢の親から経済的自立を求められてプレッシャーがのしかかる.障害との折り合い,就労への挑戦などが課題となる.40代では親からの援助は期待できず,単身生活が多くなる.生活技術,自己管理能力,支援の利用などがキーとなろう.50代になると身体疾患の合併も増える.生活圏は狭まり,自分なりの価値を見出す年齢である.60代以降は再び同居が増える.高齢者向けのサービス導入が進む時期である. また長期入院経験者は,社会生活スキルを獲得する機会が制約されるため,地域生活移行には生活訓練が必要になることも重要なポイントである.東京大学医学部附属病院精神神経科 近藤伸介1) 内藤 清:ライフサイクルに応じた回復目標.蜂矢 英彦,他(監修):精神障害リハビリテーション学.金剛出版;110-117,2014統合失調症A母死去高卒/就職発症父死去2010正社員  アルバイトを転々就労生活拠点経済状況医療就労継続支援B型30405060年齢同居単身同居病院GH家庭援助家庭援助+就労家庭援助貯蓄+年金生活保護+年金通院入院①入院②入院③糖尿病外来精神科外来図 Aさんの経過参考文献

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