2201クッシング症候群診療マニュアル 改訂第2版
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Ⅲ 臨床編(各論)80●●●成因 クッシング病(CD)を引き起こす下垂体ACTH産生腺腫の成因はなお不明である.最近の研究によって下垂体腫瘍の分子機構の異常がいくつか発見され注目されている.1脱ユビチキン化酵素(USP8)の機能獲得型変異 Reinkeらは10名のCD患者から摘出された下垂体腫瘍の全エクソーム解析の結果,4例でUSP8遺伝子にヘテロ体細胞変異を見出した1).変異はUSP8の14-3-3結合モチーフに集中し,14-4-3蛋白との結合能が消失していた.その結果,変異USP8は酵素分解を受けて,C末端側にある酵素活性ドメインのフラグメントが生成され脱ユビチキン化活性が亢進する.USP8の基質にEGF受容体(EGFR)があり,リン酸化EGFRを脱ユビキチン化してリソソームへの輸送と分解を阻害する.変異USP8は過剰にEGFRを脱ユビチキン化してリソソーム分解が阻害される結果,EGF❶ ACTH産生下垂体腫瘍で脱ユビキチン化酵素(USP8)の体細胞変異,精巣オーファン核内受容体(TR4),熱ショック蛋白(Hsp)90,サイクリンEの過剰発現など新たな分子機構の異常が発見され注目されている.❷ 選択的下錐体静脈洞サンプリング(IPSS)はクッシング病(CD)と異所性ACTH症候群(EAS)との鑑別診断のゴールドスタンダード検査ではあるが,偽陰性になる場合もある.微少な肺内腫瘍(特に気管支カルチノイド腫瘍)によるEASの局在診断に選択的肺動脈サンプリングが有用な場合がある.❸ 機能的画像診断法であるソマトスタチン受容体シンチグラフィ(SRS)はEASの局在診断に有用であるが,形態的画像診断(CT,MRI)と組み合わせることにより診断率は向上する.❹ EASの内科的治療では進行性膵・消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)に対して分子標的薬(持続型ソマトスタチンアナログ,チロシンキナーゼ阻害薬,mTOR阻害薬)が用いられる.また欧米ではSRS陽性の転移性GEP/NETに対してpeptide-receptor radionuclide therapy(PRRT)が試みられている.❺ CDの内科的治療ではソマトスタチン受容体5型に親和性の高いパシレオチドが欧米では治療薬として承認された(わが国では治験中:2015年8月現在).副作用として高血糖がほぼ必発であり,使用にあたり常に血糖管理が必要である.❻ 新規副腎阻害薬としてCYP11B阻害薬のLCI699がCDで有効とするPOCが報告された.LCI699はアルドステロンだけでなく,高用量でコルチゾールの産生・分泌も抑制し,副作用としての副腎不全のモニタリングが必要である.❼ グルココルチコイド受容体(GR)拮抗薬のミフェプリストンが糖尿病合併難治性クッシング症候群(CS)の血糖コントロール目的で欧米では治療薬として承認された.副作用としての副腎不全のモニタリングにコルチゾールを指標に使えない.❽ 術後CDの長期予後やQOLについてのエビデンスが集積し,長期予後の改善に重要なのは病気の早期発見,早期治療であることが確認された.臨床医のためのPointシグナル活性が持続的に亢進する.このような変異USP8遺伝子を過剰発現させるとPOMC遺伝子の転写活性,ACTH分泌および細胞増殖を促進させることから,USP8の機能獲得型変異がACTH産生細胞の腫瘍形成やACTHの過剰分泌の原因となる可能性が示唆される. Maらは多数(120例)のCD患者から得られた腫瘍を解析し,同様のUSP8遺伝子変異を高頻度(62%)に見出した2).USP8遺伝子をノックダウンしたり,EGFR阻害薬の投与によりPOMC遺伝子発現やACTH分泌が抑制され,逆にUSP8遺伝子の過剰発現によりPOMC遺伝子発現やACTH分泌が増加する.またUSP8遺伝子変異陽性群は陰性群と比較して女性に多く,海綿静脈洞への浸潤が少なく,また腫瘍径が小さい. いずれの報告も USP8の機能獲得型変異がEGFシグナルの過剰をきたして,腫瘍形成やACTH分泌の亢進をもたらす可能性を示唆するものである.これらの報告は以前Fukuoka らが報告3)したACTH産生腫瘍でのEGFRの過剰発現,EGFR阻公益財団法人先端医療振興財団・先端医療センター 平田結喜緒ACTH依存性クッシング症候群の最近の動向1Ⅲ 臨床編(各論) A ACTH依存性クッシング症候群

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