2201クッシング症候群診療マニュアル 改訂第2版
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 A ACTH依存性クッシング症候群81●●●Ⅲ 臨床編(各論)害薬によるPOMC遺伝子発現とACTH分泌の抑制および抗腫瘍作用を支持するものである.しかしUSP8の基質がEGFR以外にある可能性を除外する必要がある.いずれにせよCDの治療薬としてUSP8阻害薬の開発が今後期待できる.2精巣オーファン核受容体(TR4)の過剰発現 TR4はオーファン核受容体である.TR4はダイマーとして遺伝子プロモーター領域のdirect repeat(DR)に結合して転写活性を調節し,精子形成,リポ蛋白代謝,中枢神経系の発達に関与するとされる.Duらは免疫染色にてACTH産生下垂体腫瘍でのTR4が非機能性腫瘍より強く発現していることを見出した4).TR4はPOMCプロモーターのDRに結合する.マウスAtT20細胞系でTR4遺伝子を過剰発現するとPOMC転写活性とACTH分泌の亢進,細胞増殖の促進,逆にTR4遺伝子をノックダウンするといずれも低下する.またAtT20移植ヌードマウスでもTR4の過剰発現で腫瘍の増大,POMC転写活性の亢進,ACTH・コルチコステロンの分泌増加がみられ,逆にTR4遺伝子のノックダウンで腫瘍の縮小,POMC転写活性やホルモン分泌の低下がみられる.したがってTR4が核内受容体としてACTH産生腫瘍の形成に関与している可能性が示唆される.3熱ショック蛋白(Hsp90) グルココルチコイド受容体(GR)はPOMC遺伝子の転写活性を抑制する.CDではグルココルチコイド(GC)に対するACTH分泌抑制が不完全なために少量デキサメタゾン抑制試験(DST)で抑制されずに,大量DSTで抑制されるという部分的GC抵抗性を示す.このようなGC抵抗性の分子メカニズムにGRの機能障害が関与している可能性がある.シャペロン蛋白であるHsp90がGRのリガンド結合ドメイン(LBD)と結合してGR活性を抑制している.RieboldらはCDの下垂体腫瘍は,Hsp90が正常下垂体や非機能性腫瘍に比べて過剰発現していることを見出した5).Hsp90阻害薬はマウスAtT20 細胞株の細胞増殖を抑制し,POMC転写活性やACTH分泌を抑制する.特にC末端Hsp90阻害薬(ノボビオシン,シリビニン)はGR-Hsp90複合体から成熟型GRの遊離を促進し,その結果GRのシャペロンサイクルからの離脱が進み,GR転写活性が増強される.またAtT20移植ヌードマウスにシリビニンを投与すると腫瘍の縮小,POMC転写活性やACTH・コルチコステロン分泌の低下がみられ,クッシング徴候が軽快した.以上のことからCDの部分的GC抵抗性がHsp90の過剰発現によって引き起こされ,GC感受性の調節異常が本症の発症に関与している可能性が示唆される.ヒトでもHsp90阻害薬投与によってCDのGC感受性を正常に戻すことができれば,CDの治療薬として有用かもしれない.4サイクリン依存性キナーゼ(CDK)1/2 下垂体腫瘍ではCDK2/サイクリンEが過剰発現して、細胞周期でのG1/S期、G2/M期の移行を促進する。CDK2/サイクリンE阻害薬のR-ロスコビチン(seliciclib)はAtT20細胞株での細胞増殖を抑制し、POMC転写活性やACTH分泌を抑制する6)。またAtT20移植ヌードマウスにR-ロスコビチンを投与すると腫瘍の縮小、POMC転写活性やACTH・コルチコステロン分泌の低下がみられた。今後ヒトCDでのCDK2/サイクリンE阻害薬の有用性の検証が必要である。診断 ACTH依存性クッシング症候群(CS)の診断は内分泌検査と画像検査によって行う.しかしCDと異所性ACTH症候群(EAS)の鑑別診断には難渋することがしばしばあり,両者の鑑別に有用な検査法の開発・応用が望まれている.1選択的サンプリング法 CDによる下垂体腫瘍の局在診断で最も精度が高い検査は選択的下錐体静脈洞サンプリング(IPSS)である.CDとEASとの鑑別のゴールドスタンダード検査であるIPSSでも1~10%で偽陰性となる.IPSSでは血中ACTHの中枢/末梢比(C/P)によって判定するが,カテーテルが選択的に挿入されているかはプロラクチン(PRL)のC/P比で確認し,ACTHをPRLで補正する方法(ACTH/PRL)がとられる.PRL補正C/P比が1.3以上であればCD,0.7以下であればEASと判定できるとされる7).しかしACTH依存性CS患者25例(CD 17例,EAS 8例)でIPSSを施行した結果,必ずしもPRLで補正したC/P比(0.7~1.3)は両者の鑑別診断の絶対的なカットオフ値にならない8).PRL測定に加えて静脈造影により適切なカテーテル位置を確認し,また周期性CSにみられる正コルチゾール血症の時期を避けることが必要である. EASの局在診断には,選択的静脈サンプリングでACTHのステップアップを証明することが一部の腫瘍(甲状腺髄様癌や褐色細胞腫)で有用とされるが限定的である.気管支カルチノイド腫瘍は腫瘍が小さいために必ずしも画像検査だけで確定できないことが多い.われわれは腫瘍部位に分布する肺動脈分枝に選択的にカテーテルを楔入してサンプリングし,ACTHのステップアップを証明することによって気管支カルチノイド腫瘍によるEASを確定診断できた(図1)9).EASの半数は

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