2204看取りの医療 改訂第2版
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1 「あなたがたお母さまを殺す気ですか?」この言葉は,私の知人の母親がある老人保健施設に入所していたとき,医師である施設長から投げかけられた言葉です.100歳の母親が施設で徐々に食べられなくなり,胃瘻の適応が提案されました.家族は年齢のこともあり胃瘻の適応を拒否しますと,施設長からこの言葉を投げかけられ,結局胃瘻造設に同意したとのことでした.この母親は最終的に2年後亡くなりました.このエピソードを聞いて私が思ったのは,現在の医学教育のなかで死がタブー化され,自然死の容認(allow natural death:AND)の元で「看取りのベストプラクティス」のための教育・研究がまったくなされていないという事実です1). それでは尊厳とはどのように考えられるでしょうか?「個人の尊厳とは,個人の尊重ともいい,すべての個人が人間として有する人格を不可侵のものとし,これを相互に尊重する原理をいう」とあります.医療現場においては,たとえ善意の治療介入であっても,①無断で侵襲的傷害行為を強制されないこと,②自分の意思でさまざまな選択ができること,③一人の人間として大切に(尊重)されることがあげられます2).今後医学教育のなかに医師の基本的スキルとして「よりよい看取りの医療」のための教育が必要となると思われます. 本来「倫理」とは,「倫」(人の輪,仲間)と「理」(模様・ことわり)を合わせたもので,“仲間での間のきまりごと,守るべき秩序”をいいます.それゆえ倫理は,国・時代・文化・宗教などにより異なり,時代とともに変化するものです. アメリカで1960年代より,倫理,哲学,法律といった医療以外の研究者を中心とした脳死,臓器移植,遺伝子治療などの先端医療の倫理的問題の議論のなかから生命倫理bioethicsという学問が発展してきました.それに対して,1980年代に特に医療関係者から,もう少し1 あなたがたお母さまを殺す気ですか?2 尊厳とは?3 臨床倫理学とは?大阪発達総合療育センター小児科船戸正久Ⅰ総 論1医療現場の臨床倫理学と看取りの医療
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