2209整形外科研修ノート
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21整形外科医への道を歩みはじめた皆さんへ 整形外科は運動器の諸問題を取り扱う診療科である.運動器は骨・関節,筋組織,末梢神経や脊髄を含めた神経組織からなる複合器官で,人間が人間らしく活動を行うのになくてはならない器官である.二足で歩く,走るなどの移動動作,日常生活で最も重要な手を様々な空間的位置に保持するなどの基本動作以外に,感情を体で表現するなど,喜びや悲しみを表現する手段として運動器がかかわる.一言で運動器といっても部位的には頚部から足先まであり,また乳幼児から高齢者では形態および質が異なることから,整形外科の対象領域は広範囲に及ぶ. 人間の体は約200の骨から構成されている.それぞれの骨は関節で連結され,人間の進化の過程で関節は目的に応じた形態と構造を有している.関節の形態はその機能を表し,関節の動きを規定している.大きな動きを必要とする関節は,靱帯などの軟部組織でゆるい結合をし,それを許容する形態があり,体重をしっかり受ける関節では骨性支持が強固で,動きは制限されるが,その隣接部位で他の動きを代償する構造がある.一度関節の中を観察すると,関節面の形状や関節表面を被覆する関節軟骨の精緻な構造に驚かされることだろう. 関節を動かす動力源は筋肉であるが,靱帯付着部をみると靱帯線維,軟骨などにより特殊な構造をもつ.人間の体重の倍以上の重量物を運搬したり,またスポーツ活動ができたりするのはその構造に依存している.骨格標本を改めて観察してみると人間の骨格構造の素晴らしさに気づくことだろう. 運動器を対象疾患とする整形外科における治療目標として体の機能を維持あるいは向上させることが求められる.治療を受ける側と治療を行う側が一体となって,目標に向かう治療学なのである.その目的が達成されたときの喜びは整形外科医冥利に尽きるものである.どの分野を選択しても,整形外科医選択の諸君の期待を裏切ることはないだろう.2整形外科医の必要性の高まり わが国では2005年頃より65歳以上の高齢者の全人口に占める割合が20%を超え,超高齢社会となり,2009年の人口統計では年少人口の減少と高齢人口の増加によってピラミッドの形態をなさなくなった.2025年には国民の3人に1人が65歳以上の高齢者となり,全人口における高齢者の割合は30%以上に,2060年には約40%に達すると予測されている.医療従事者はこれまでに経験したことのない高齢者の健康を管理する役割を果たすことになる. 一口に高齢者といっても,暦年齢は同じでも日常生活や社会生活での活動や身体能力には個人差が大きく,退職後も地域での福祉活動に参画したり,職場に復帰したりする人たちも多い.したがって,治療目標には各個人に応じた対応が求められることになる.もう1つの高齢化に伴う問題点は,家族構成がかつての大家族制度から核家族化が進み,単身で生活する高齢者の割合が増加の一途を辿っていることだ.歩いたり,椅子に座ったりなど,身の周りの動作を行う上で基盤をなす運動器を健全に保つことは,高齢者の生活の質の維持あるいは向上,さらには精神的や内科的併発症をA これから整形外科医を目指す君たちへ整形外科医を志す諸君へ1

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