2218麻酔科クリニカルクエスチョン101
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1)いかにマスクをあてるか? :吸入導入のファーストステップ吸入導入の具体的な方法として,まずは,いかに児にマスクを受け入れてもらうか,ということから考えなければならない.保護者と一緒で安心でき,和やかな環境下(たとえば術前診察の段階)で,マスクの実物を児本人に渡して,顔にあててもらい,マスクそのものは怖いものでない,ということを認識しておいてもらうようにする.手術室に様々な香りの食用香料(エッセンス)を準備しておき,術前診察の段階で好みの香りを聴取しておき,その香りをマスクの内側につけておくことも効果的かもしれない.フルーツの香料をコーティングしたマスクを使用した場合,より穏やかに導入することができたとする研究もある3).手術室入口から手術室入室までは,児の興味を引きそうな話題の会話を続けたり,絵本やタブレットやDVDを用いたりしながら,児の注意をそらすように努める.いくら注意がそらされていても,ベッドに臥位になって様々なモニター機器が装着されてくると,児の恐怖心がかきたてられてくることがある.そのため,すべてのモニターの装着にはこだわらず,ASA 1~2の児であれば,SpO2モニターの装着のみとする.恐怖心をかきたてるような臥位にさせずとも,乳児や就学前の小児であれば麻酔科医や保護者が抱っこした状態(図1)や,麻酔科医により児の両腕を優しく抑制し上体を支えながらの座位の状態(“bear-hug” technique,図2)でマスクをあてることも考える4).どうしてもマスクを受け入れることができない児に対しては,麻酔科医が自らの両手の指と指を絡めてカップのような形にし,その指の間からマスクを外した麻酔回路先端を組み込み,70%の亜酸化窒素を吸入させながら,児の口を覆うようにしていく方法もある.児の口がぴったりと術前や麻酔導入時の不安が小児の周術期管理にどのような影響を及ぼすか?麻酔導入時に極度な不安から啼泣してしまうことは,小児ではみられうることである.こうした極度の不安から,たとえば,重症先天性心疾患の児のなかには啼泣や交感神経緊張により低酸素血症や心不全の増悪を招来する場合もあり,もやもや病の児の場合は過呼吸や啼泣から虚血発作を招来する可能性もあり,麻酔導入が困難になりうる.また,麻酔前や麻酔導入時の患児の不安や心的外傷と,術中の麻酔薬の必要量1),術後の痛み2),術後の行動異常(悪夢,夜泣き,母子分離不安の増強,食思不振など)3),覚醒時興奮4)には相関関係がある.すなわち,術前や麻酔導入時に不安を与えないように努めることは,麻酔導入そのものを円滑にするだけではなく,術後管理,術後の児とその家族のQOLにもつながる.したがって,術前や麻酔導入時の児の不安や心的外傷を軽減することに努める必要があるが,まずは,術前評価の段階で,手術や麻酔に対する不安を抱える児を同定することが必要である.診察時の明らかな啼泣や非協力的な態度ばかりでなく,視線を合わせない,質問に答えようとしない,感情を表出しない,年齢的に不相応なほど親離れができていない,なども術前不安の表れとして認識する必要がある5).また,麻酔導入時の不安を予想する因子として,低年齢,以前に医療行為を受けた際の問題行動,長時間手術,6回以上の入院歴,保護者の不安が強いことであったとする研究もある6). (小原崇一郎)文献◉1)Maranets I, et al.:Anesth Analg 1999;89:1346-1351   2)Kain ZN, et al.:Pediatrics 2006;118:651-648   3)Kain ZN, et al.:Anesth Analg 1999;88:1042-1047   4)Kain ZN, et al.:Anesth Analg 2004;99:1648-1654   5)Kain ZN, et al.:Arch Pediatr Adolesc Med 1996;150:1238-1245   6)Davidson AJ, et al.:Paediatr Anaesth 2006;16:919-927Mini LectureChapter 6 麻酔導入100

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