2218麻酔科クリニカルクエスチョン101
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ある.したがって脳脊髄液の流出がない場合は局所麻酔薬を注入してはならない.また脊柱管が背部に囊状に突出していることがあるため,脊麻で高比重の局所麻酔薬を使用した場合は,薬がたまり神経障害を起こす可能性があるので等比重を使用する.さらに,囊に局所麻酔薬がたまり広がりが十分とならないことがある.腰部における潜在性二分脊椎は仙骨の奇形と同様にまれではなく,腹部X線写真などで確認しておく必要がある.したがって二分脊椎の特徴である仙骨の軟部腫瘤,皮膚陥凹と多毛を見たときには低位脊髄円錐を疑う必要がある.③ 脊椎の術後においては,特に神経学的合併症が増加するわけではないが,硬膜外腔の薬剤の広がりが予想できないことやくも膜穿刺が難しいことがある.また,脊椎手術が行なわれていない場合と比べて術後の神経障害や体位による背部痛などの発生度には差はないが,脊麻や硬膜外麻酔による脊椎疾患の悪化と患者が思うこともあるので十分説明する.④ 脊椎管狭窄症では,脊麻も硬膜外麻酔も脊髄圧を上昇させるため症状が悪化することがある.硬膜外麻酔では脊髄横断症状を起こすこともある.したがって,硬膜外麻酔でテスト量を投与する際に異常な痛みを訴えた場合は直ちに投与を中止する.脳脊髄液はくも膜下腔において絶えず対流しているが,脊柱管狭窄があると対流が滞り脳脊髄液が変化し,くも膜穿刺時に逆流してくる脳脊髄液の色や性状が異なることがある.2)大循環器系■大循環血液量の減少出血性ショックなどの循環血液量の減少は相対的禁忌としてあげられることが多いが,十分に循環血液量を補えるのであれば禁忌ではない.しかし,交感神経系の緊張により循環状態が代償性に保たれていることがあるので,脊麻や硬膜外施行で安易な交感神経系ブロックを行うと,直ちに急激なショックとなるので十分注意が必要である.■大動脈弁狭窄大動脈弁狭窄症においては,体循環の血管抵抗が低下することで冠動脈の血流量が減少する.それによって起こる心停止は,回復が非常に困難なことが知られている.動脈硬化による石灰化した大動脈弁狭窄は高齢者にみられることが多い.手術や合併症のため,全身麻酔より脊麻や硬膜外麻酔が適応となる場合には,急激な末梢血管抵抗の低下を避ける必要がある.そのためには,α刺激作用の昇圧薬を準備し,持続硬膜外麻酔や場合によっては持続脊麻を考慮し少量ずつ局所麻酔薬を投与する.3)呼吸器系高位脊麻や胸部の硬膜外麻酔では肋間筋のブロックにより換気が抑制されることがある.しかし,横隔神経が完全にブロックされることはなく,多くの場合は問題とならず禁忌とはならない.気管支平滑筋にはβ受容体はあるが交感神経系支配は受けておらず,喘息患者に対して硬膜外麻酔は禁忌とならない.しかし,副腎髄質への交感神経系ブロックによる血中カテコラミン低下は,気管支平滑筋の収縮に影響がある.したがって,喘息患者においては全身麻酔を避けて脊麻や硬膜外麻酔を行うことがあるが,高位脊麻や硬膜外麻酔により喘息発作が誘発されることがある.4)血液系出血傾向がある場合は治療を行ってから脊麻や硬膜外麻酔を行う.区域麻酔を行うための血小板数や凝固検査値の基準は様々であるが,国際的に有名なのは米国局所麻酔科学会のものである.日本人にそのままあてはめることは必ずしも適当ではなく,日本独自の基準が望まれている.血小板数は10万/μL以上,PT-INR 1.5以下が一般的である.しかし,筆者はPT-INRは1.3Chapter 5 区域麻酔76
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