2239耳鼻咽喉科・頭頸部外科研修ノート 改訂第2版
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第3章 研修で学ぶべき症状・症候のみかた症状・症候のみかたB105遅発性内リンパ水腫と診断される.先天性難聴では聴力が固定していることもあれば,進行することもある. c 後迷路障害の鑑別  後迷路障害による感音難聴の原因を表2に列挙した.聴覚経路の神経線維は高度に障害されないと純音聴力検査上の閾値が上昇しないが,純音聴力検査の閾値に比べて語音明瞭度は著明に障害される.障害部位の診断にはABRが有用であり,また頭部MRIで画像的に捉えられることも多い.脳幹の障害では交叉前後に共通した所見と交叉前後で異なる所見(表3)がある.4混合難聴 上述した伝音難聴と感音難聴の合併によるものが多い.耳小骨の固着では純音聴力検査で2kHzを中心に骨導閾値が上昇することがあり,見かけ上混合難聴となる.後天性の混合難聴で鼓膜所見が正常の場合は耳硬化症と考えてまず間違いはない.家族性(X-linked)に高度の混合難聴がみられる場合は遺伝性難聴のDFN3が疑われる.心因性難聴でも感音難聴を呈することがあり,多くは水平型か皿型の中等度難聴である.聴力のわりに会話ができるのがヒントになる.語音明瞭度曲線が純音聴力検査所見に合致しないことが多く,また自記オージオメトリー,音響性耳小骨筋反射,耳音響放射,ABRなどが診断に役立つ.詐聴の鑑別においてもこれらの検査は有用である.Pitfall!表3 脳幹聴覚伝導路障害の特徴1. 交叉前後に共通した特徴 1)  純音聴力閾値は正常または軽度に低下することが多い 2) 語音明瞭度(単音節の認知)が低下する 3) 補充現象は陰性 4)  単語または文レベルの聴覚的理解は正常 5) 環境音認知は正常 6)  方向感検査で時間差は著明に障害されるが音圧差は正常2. 交叉前の障害 1) ABRはIII波以降が消失または遅延する 2) 語音明瞭度は障害側で低下する 3) 両耳分離能検査では障害側が低下する 4) アブミ骨筋反射は障害側で異常が出る3. 交叉後の障害 1) ABRはIV波以降が消失または遅延する 2) 語音明瞭度は障害の反対側で低下する 3)  両耳分離能検査では障害の反対側が低下する 4)  アブミ骨筋反射は障害部位により異常が出ることもある 5)  両側の下丘が障害されると高度難聴となる(mid-brain deafness)東京大学医学部耳鼻咽喉科 山岨達也DON’Ts 聴力検査前に鼓膜所見を取り忘れるな! 鼓膜所見は聴力検査技師にとっても重要な情報である. 正しいマスキングで聴力検査がなされたか,確認を怠るな! マスキング理論に合わない場合は再検査をすること. 種々の聴覚検査をルーチーンで実施しないこと! 各検査の特徴を理解し,必要な検査を考えながらオーダーすること. 画像診断の限界を忘れるな! 微細な変化や可動性は判定できない.partial volume effectの影響も考えること.

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