2250薬剤性腎障害DKI診療QandA
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薬剤と腎 日常臨床において投薬は最も基本的な治療行為のひとつである.しかしときに腎臓に対して,予期せぬ,あるいは望ましくない影響をもたらす.結果として投与薬剤の変更や投薬の中止を迫られるばかりでなく,薬剤投与の結果生じた腎障害そのものへの治療介入が必要になることもあり,臨床医にとって重要な問題のひとつである. 「薬剤性腎障害」という語はこれまでにも用いられてきたものの,明確な定義は存在しなかった.「薬剤による腎障害」として想起される病態は多岐にわたる.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬等の投与後の一過性の血清クレアチニン値の上昇から,抗菌薬投与後の急性間質性腎炎,白金製剤投与後の急性尿細管壊死による急性腎不全など,日常で遭遇する「薬剤による腎障害」の臨床像は機序や病態,重症度など,極めて多彩である.よって「薬剤による腎障害」の概念は種々の病態を含んだ広範なものとならざるを得ない. 社会的に知られた「薬剤による腎障害」の例として,不純物を含んだ漢方薬による腎障害の集団発症がある.1992年前後,バルカン半島を中心としたヨーロッパにて“やせ薬”として出回っていた漢方生薬を含む製剤を服用した若年女性が相次いで不可逆的な急性腎不全を呈し“Balkan endemic nephropathy”とよばれた2).わが国でも,漢方成分を含む健康食品の摂取後の不可逆的な急性腎不全例が1996~7年に複数報告された3).これらは,いずれも植物由来の芳香族カルボン酸であるアリストロキア酸による腎間質線維化が原因と判明し,“Chinese herb nephropathy”として知られることとなった. 他方,現在のわが国に目を向けると,わが国の慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の患者数は1,330万人となり,成人8人に1人に相当する水準まで達し4),さらなる増加が予想される.CKDは21世紀に入り出現した新たな“国民病”である.このように投薬を開始する前からすでに腎障害が存在する例も少なからずあり,薬剤性腎障害はそれを増悪させる可能性がある.加えて,腎は薬剤の代謝や排泄を担う臓器であり,ひとたび障害が発生すると,常用量の薬剤投与により薬物血中濃度の予期せぬ上昇が発生し得る.そのため,多くの薬剤で投薬量や投与間隔の調整が必要となる.さらに,余儀なくされた減量により原病の治療が不十分となる可能性もある.これは,超高齢社会を迎えポリファーマシーの問題にも対峙しているわが国では看過できない点である.このように薬剤と腎は切っても切れぬ関係にあり,診療の際は必ず腎と薬剤を相互に鑑みる必要がある.よって「薬剤による腎障害」を体系的に理解し,診療を行うことが重要である.「薬剤性腎障害」の定義 以上のような経緯から,今回わが国において『薬剤性腎障害診療ガイドライン2016』がはじめて作成された.同ガイドラインのまず特筆すべき点として,「薬剤性腎障害(drug‒induced kidney injury:DKI)」を明確に定義したことがあげられる.同ガイドラインでは「薬剤性腎障害」を「薬剤の投与により,新たに発症した腎障害,あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認めた場合」AQ総 論21薬剤性腎障害とはどういう病気ですか?薬剤性腎障害とは,「薬剤の投与により,新たに発症した腎障害,あるいは既存の腎障害のさらなる悪化を認める場合」と定義されます.

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