2252やさしくわかる胎盤のみかた・調べかた
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50Ⅱ章 単胎胎盤の調べ方 虚血性変化に伴う絨毛の変化A:絨毛虚血の初期では,絨毛は萎縮性で,絨毛間にフィブリンや血液が目立つ.B:中期となると栄養膜細胞は融解し,絨毛の構造は不明瞭となる.絨毛内血管には胎児血流がみられる.C:完成した梗塞では絨毛は陰影のみ残し,細胞成分はほとんど認められない.図4-29ACB妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hy-pertension syndrome:PIH)(妊娠中毒症)は人類最古の疾患の一つといえるもので,古くはヒポクラテスの著書にも古代エジプトや中国の文献を引用して妊娠に伴うけいれんが記録されている.胎盤娩出とともに状態が改善してしまうというわかりやすい病態にもかかわらず,その明らかな原因は依然として不明である.けいれん発作を示す子癇(eclampsia)という語は17世紀より使われはじめ,やがて妊娠中毒症は高血圧,蛋白尿,浮腫が主症状であると認識されるようになった.このことからこれらの症状は子癇の前兆とされ,pre-eclampsiaという語が使われた.preeclampsiaの病因論はこれまで多岐にわたって展開されており,“学説の疾患(disease of theories)”といわれるほどである.20世紀中頃より子宮胎盤乏血説が有力な病因とされ,特に1990年代に入って,妊娠初期の胎盤形成不全が胎盤乏血をまねく要因の一つとして認識されるようになった.1980年代以降,preeclampsiaは一種のカスケード現象として説明されるようになり,現在では血管内皮細胞障害を呈し,高血圧を主としたmulti-system disordersとしてとらえられている.1970年代からアメリカを中心として高血圧が“preeclampsia”の主徴と考えられるようになった.そして,妊娠20週以降,分娩後12週まで高血圧がみられる場合,または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで,かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものを,妊娠高血圧症候群とし,従来“preeclampsia”と称した病態の名称はこのように改変された.わが国でも2005年から日本産科婦人科学会によりpreeclamp-siaを表す妊娠高血圧症候群を使用し,妊娠中毒症という語は使用しないこととなった.PIHでは胎児発育不全,早産,常位胎盤早期剝離など児にも重篤な病態が生じるため,胎盤診断では胎盤の所見がPIHに合致するものであるかを診断して,他の病態と鑑別する必要がある.PIHで認めることの多い胎盤所見として,病態ミニ解説②妊娠高血圧症候群(PIH)

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