2255ライフサイクルに沿った 発達障害支援ガイドブック
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122第3章 発達障害と二次障害・関連問題とその治療的アプローチ 暴力や衝動的行為そのものは「障害」そのものではない.本項の場合は,発達障害において生じた一次的あるいは二次的な行動面の症状ともいえよう.発達障害においては一次障害として,衝動統制の困難を伴う場合があるが,そういった場合,突発的・衝動的に暴力を含む衝動的行為を呈することも生じうる.たとえば注意欠如・多動症(attention‒deficit/hyperactivity disorder:ADHD)は,目標に向けて注意や行動を制御する実行機能(executive function:EF)あるいは実行制御機能(executive control func-tion:ECF)の異常を呈するため,衝動統制の困難が生じて攻撃的行動や衝動的行為などを惹起するという考えがある.ECF異常はADHDにおいて報酬系異常とともに中核症状とされるが,ADHDの併存の有無にかかわらず,他の発達障害(知的障害を含む)においてもECF異常は生じるため暴力や衝動的行為へのリスク因子となりえる. もう一点,発達障害の一次的障害として暴力や衝動的な行為を助長させうる特性が,発達障害の一部で生じる「興味や関心の偏り」である.これらが,「たまたま」暴力や反社会的行為につながっていく場合がある.たとえば「この格闘技の技をかけたら人はどうなるのか……」,「この薬品を飲ませたら人はどうなるのか……」といったものである.支援者は対象者の興味や関心の内容にも注意を向け,場合によっては必要な修正を地道に働きかけなければならない. 次に二次障害について改めて考えると,発達障害自体は本来,社会的評価とは無関係であるはずにもかかわらず,実際には発達障害特性はさまざまな社会的評価と結びつき,多くの場合,社会的評価は低下する.その結果として「いじめ」,「虐待」,「理不尽で過度な叱責」等が生じ,それらが続いて本人の自尊心や自己肯定感は毀き損そんし,他者や社会を信頼できなくなる.基本的信頼感が損なわれ,本人は大きな生きづらさを抱えるようになる.このようになると反応性にさまざまな症状が出現してくる.これがいわゆる二次障害であるが,抑うつや不安のように内在化していく症状もあれば,暴力や反社会的行動,不登校,ひきこもり等のように外在化していく症状もある 1 障害の特徴と問題・背景9暴力・衝動的行為暴力,衝動的行為,二次障害,多職種による支援チーム

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