2255ライフサイクルに沿った 発達障害支援ガイドブック
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36第2章 ライフサイクルに沿った具体的な治療と支援残存するということは,二次障害は決してまれなものではなく,経過のなかで一般的に生じてくると考えるのが妥当といえよう. 二次障害は外在化障害と内在化障害に分けて考えると理解しやすい.外在化障害とは反抗的な行動や非行など外に向かって周囲への行動上の問題として表現する障害群である.内在化障害とは不安や抑うつ,ひきこもりなど自己の内面で抱え込むかたちとして表現する障害群であり,これらはADHDの子どもたちの思春期・青年期における大きな課題である. 思春期に入ると子どもたちは心身の急激な変化を経験する.変化に伴って自己意識が強くなり,他者との比較,それまでの自己イメージの揺らぎ,大人の価値観への反発,自立と依存との葛藤,仲間集団への同一化などを経て,悩み模索しながら自己アイデンティティを確立していく.この過程では内面に混乱が生じやすく,非行,不登校,ひきこもりなどの行動問題や,さまざまな神経症状を呈するリスクが高まる.思春期危機とよばれる難しい時期である. 当然ADHDをもつ子どもたちにも思春期は訪れ,同年代の子どもたちと同様に悩みながら自己を再構築する作業に向き合うこととなる.「基本的に自分はこれでいい」と受け入れ,ひとりの人間として確信をもてるようになるためには,児童期までに自分が必要とされる有能な人間であるというポジティブな自己イメージを蓄積しておく必要がある.ところが彼らが新たな自己を構築するべく過去をおさらいするとき,やり遂げた経験,認められた経験,困難に耐えて何かを得た経験はあまりにも少ない.ADHDの中核症状のうち,多動性と衝動性が目立つ時期,つまり児童期後期までに,日常的な対人トラブルや大小の失敗が頻発するなかで小学校時代を過ごすことが多いからだ. 自分を少しもよく思えないまま自己意識が強くなり,自らの考えや価値観にこだわるようになると,過去に受けてきた誤解,叱責,侮辱,疎外感ばかりがクローズアップされて怒りに満ちた思春期を過ごすか,あるいは自らの失敗や傍若無人にも思える振る舞いへの後悔や恥ずかしさに苛まれて社会的場面からひきこもる内在化障害が生じるリスクも高くなる.また子どもに自信をもたせ,支えになるはずの学業や課外活動,また友人関係でも十分な成果を感じられないまま不全感を募らせているとなると,とても自己肯定感や自尊心を保つことはできない.こうして通常でも苦しい思春期の混乱は,ADHDをもつ子どもたちにとって目の前に立ちはだかる強大な壁となるのである. 2 思春期心性とADHD

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