2258これならわかる!小児科診療に活かせる遺伝学的検査・診断・遺伝カウンセリングの上手な進めかた
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60各 論❷代 謝性保因者が発症することは極めてまれで,ほぼ男児のみに発症する疾患と考えてよい.診断は,白血球中のイズロネート-2-スルファターゼの酵素活性の著明な低下(多くは測定感度以下)を証明することで確定できる.約70%の症例が知的障害を伴う重症型で,残りが知的障害を伴わない軽症型である. 治療は対症療法と根治的治療法に分けられる.対症療法は,心臓弁の弁置換や中耳炎に対するTチューブの挿入,水頭症に対するV-Pシャント,アデノイド切除などである.根治的治療法としては,造血細胞移植と酵素補充療法がある.いずれの治療も発症早期あるいは発症前から開始することで,治療効果や予後の面で好ましい結果が得られるため,新生児マススクリーニングの対象疾患の候補にもなっている.ただし,酵素補充療法は,精神発達遅滞や退行などの中枢神経症状への効果が期待できないので,酵素の髄腔内投与など,中枢神経系をターゲットとした新規治療法の研究が進んでいる3).遺伝学的検査の臨床的意義 ムコ多糖症II型の遺伝学的検査としては,白血球や培養皮膚線維芽細胞中のイズロネート-2-スルファターゼの活性測定と,イズロネート-2-スルファターゼをコードする遺伝子(IDS)の変異解析がある.前者は,病態に直結した検査であり,確定診断としての意義が大きい.後者は,いわゆる“遺伝子診断”に相当する.ムコ多糖症II型の遺伝子変異は多彩である.ミスセンス変異,ナンセンス変異,1塩基欠失や挿入に伴うフレームシフト,スプライシング変異などのほかに,IDSとその近傍の遺伝子であるFMR2遺伝子などを含む広範な欠失を伴う隣接遺伝子症候群4)や隣接する偽遺伝子IDS-2との組換え変異5)などを認める.ムコ多糖症における遺伝子検査の臨床的意義は,①生化学的診断を補強する,②遺伝子変異のパターンから重症型軽症型の型別予測や予後予測に役立てる,③発端者の母親やその家系における保因者診断を可能にする,④この母親の次子の出生前診断に利用する,などである. 筆者らは,これまで60家系以上の日本人ムコ多糖症II型患者とその家族の遺伝子検査を実施したが,その結果,ナンセンス変異,フレームシフト変異,スプライシング変異,偽遺伝子との組換え変異など,いわゆるヌル変異を有する症例はすべて重症型であった.また,軽症型のほとんどはミスセンス変異であった.なお,ミスセンス変異のなかには,明らかに重症型の臨床経過を示す症例も存在した6).上記の結果は,遺伝子型と臨床的な表現型との間に明らかな相関があることを示しており,遺伝子変異を確定することで型別診断や予後予測が可能なことを示唆している.現在,中枢神経系への治療方法の開発が注目されているが,型別診断と予後予測は,これらの治療法が可能になったときにはより一層その重要性を増すであろう. ムコ多糖症II型は,X連鎖劣性遺伝性疾患であり,ほとんどの症例で,発端者の母親は保因者であるが,まれに保因者でない症例,すなわち発端者が新生突然変異により発症している場合,あるいは母親が性腺モザイクである場合がある.ムコ多糖症II型では,母親が保因者であっても将来発症することはないが,母親が保因者か否かは,母親の次子や母親の姉妹の子どもたちの発症率に影響する.X連鎖性疾患の保因者診断においては遺伝子検査が最も確実な方法である.なお,ムコ多糖症II型のようなライソゾーム病では,

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