2258これならわかる!小児科診療に活かせる遺伝学的検査・診断・遺伝カウンセリングの上手な進めかた
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31遺伝学の基礎知識てのみ扱うのが通常である. 近年の研究の進歩によって,多くの癌は癌細胞内における多くの遺伝子変異の蓄積で形質転換して生じることがわかってきているが,癌細胞内における遺伝子変異は,癌細胞となったその細胞固有のものであり,次世代に受け継がれることはない.このような変異を体細胞変異とよび,次世代に伝わる可能性のある生殖細胞系列の変異とは区別して扱われる.メンデル遺伝形式 遺伝性疾患は次世代に伝わる可能性のある生殖細胞系列の遺伝情報の変化によって生じる疾患であるが,必ずしも見かけ上の症状が親から子へ遺伝するわけではない.というのも,常染色体劣性遺伝性疾患では両親が変異のヘテロ保因者であったとしても発症することはないし,突然変異の場合はそもそも両親には変異がないからである.遺伝情報の変化が表現型を伴って親から子へ伝わるのは常染色体優性遺伝性疾患だけである(表1). 優性と劣性の違いは遺伝子変異ないし染色体の異常が,2つの染色体のうちの一方にあるだけで即症状を示すかどうかによる.患者にも説明しやすいたとえがABO式血液型である.A型とB型はABO式血液型関連遺伝子の2つのアリル(遺伝子座)のうちのどちらか一方にあるだけで表現型につながる.一方がA型,もう一方がB型の場合,両方の表現型が現れAB型を示す.したがって,A型とB型は常染色体優性遺伝形式を示す.これに対してO型は,2つのアリルの両方がO型の場合,はじめてO型の表現型を示す.一方がA型かB型ならO型の表現型が隠されてしまう.したがって,O型は常染色体劣性遺伝形式を示す. 常染色体上にある遺伝子の場合とは異なり,X染色体に位置する遺伝子の場合は性別によって表現型への現れ方に違いが生じる.女性の場合,X染色体は常染色体同様2本ずつあるため,劣性遺伝形質の場合,2つのアリルのうちの1つに変異があっても,もう1方に異常がなければ表現型に現れることがない.それに対して男性の場合,X染色体が1本しかないため,変異があれば劣性遺伝形質であっても即表現型に現れる.このような遺伝形式をX連鎖劣性遺伝形式という. これら優性遺伝形質と劣性遺伝形質による遺伝パターンを提唱したのがMendelであヒトの遺伝性疾患に関わる遺伝形式メンデル遺伝  常染色体優性遺伝形式 常染色体劣性遺伝形式 X連鎖劣性遺伝形式非メンデル遺伝  染色体転座によるもの ゲノム刷り込みに関わるもの トリプレットリピート病に関わるもの ミトコンドリア遺伝表1100%0%遺伝的な要因環境要因染色体異常など生活習慣病など交通事故など表現型に与える遺伝的な要因と環境要因の割合先天性疾患は遺伝的な要因が発症要因に占める割合が大きいが,交通事故などによる外傷は環境要因が発症の要因に占める割合が大きい.図1

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