2261内分泌性高血圧診療マニュアル 改訂第2版
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2●●●Ⅰ 総論編はじめに 高血圧の約80~90%は遺伝的背景と生活習慣が原因とされる本態性高血圧,残り10~20%は二次性高血圧である.そのなかでも適切な診断,治療により治癒可能なのが内分泌性高血圧で,早期発見と早期治療が重要である.内分泌性高血圧は内分泌器官の機能亢進に伴い,昇圧作用を有するホルモンが自律性かつ過剰に分泌される結果,高血圧をきたす疾患群で,多くは腫瘍によるが,過形成が原因になることもある.高血圧は日常診療で経験することの多い生活習慣病であるが,治癒可能な内分泌疾患診断の重要な糸口であることを忘れてはならない.早期診断,治療が重要な理由 内分泌性高血圧は原因疾患の治療により治癒可能である.一方,通常の降圧薬の組み合わせでは血圧のコントロールが困難な治療抵抗性高血圧となる場合が少なくない.高血圧による臓器障害に加えて,ホルモンの直接作用による心血管系臓器の障害をきたす.さらに,ホルモンの過剰は耐糖能障害や脂質異常症など種々の代謝障害を合併し,それを介する血管障害,臓器障害をきたす可能性もある(表1).それゆえ,原因疾患としての内分泌疾患を見逃したまま高血圧治療を行っていると,治療抵抗性高血圧となり,臓器障害の進展を十分に阻止できない可能性がある(図1). このような理由から,日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン1)でも二次性高血圧の除外が重要なステップであると位置づけている.内分泌性高血圧の原因2~4) 内分泌機能亢進をきたす代表的な疾患を表2にまとめた.下垂体,甲状腺,副甲状腺,副腎などの主要な内分泌器官が原因となる.腎血管性高血圧も液性因子であるレニン⊖アンジオテンシン⊖アルドステロン系の活性化が関与することから,内分泌性高血圧の側面を有する.特に原発性アルドステロン症(PA)5~7),クッシング症候群8),褐色細胞腫9,10)などの副腎疾患は高血圧が発見の契機となることから,代表的な内分泌性高血圧である.原因に対する治療により治癒可能であること,標的臓器障害を合併すること,一部に悪性腫瘍も含まれることから適切な診断が必要である.臨床的特徴 先端巨大症,クッシング症候群,Basedow病な1内分泌性高血圧の概要国立病院機構京都医療センター臨床研究センター 成瀬光栄国立病院機構京都医療センター内分泌・代謝内科 立木美香,田上哲也臨床医のためのPoint❶内分泌性高血圧の鑑別診断は高血圧診療の最も重要なステップの1つである.❷特徴的身体所見,耐糖能障害などの代謝異常,低カリウム血症,副腎偶発腫瘍などが発見のきっかけとなる.❸特に治療抵抗性高血圧で疑うが,血圧のコントロールが良好でも否定できない.❹原発性アルドステロン症はレニン,アルドステロンの測定が第1ステップである.内分泌性高血圧の診断・治療が重要な理由 1 .原因疾患の除去により治癒可能 2 .治療抵抗性高血圧の原因 3 .合併する代謝障害による臓器障害の進展 4 .ホルモンの直接作用による臓器障害の進展1表原因疾患ホルモン過剰高血圧降圧薬直接作用耐糖能障害脂質異常症糖尿病治療薬脂質異常症薬根本的治療臓器障害内分泌性高血圧の病態と治療方針個々の合併症の治療のみならず根本的治療が重要であることを示す.1図

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