2262褐色細胞腫診療マニュアル 改訂第3版
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Ⅱ 臨床編88●●●はじめに 褐色細胞腫の画像検査として,CT,MRI,123I-meta-iodobenzylguanidine(MIBG)シンチグラフィなどが行われる.画像診断の発達により副腎腫瘍の診断能は向上したが,褐色細胞腫の良・悪性の鑑別は困難である.褐色細胞腫は比較的大きい腫瘍として発見されることが多いが,悪性のものは5 cm以上のことが多く,不整形で壊死を伴うことも多い.良性でも壊死や囊胞および出血をよく合併するため,副腎癌や副腎転移との鑑別も問題となる.多臓器に多発する病巣があっても,多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)の場合があるため,必ずしも悪性とはいえない.初発時にクロム親和性細胞の存在しない組織にも腫瘍がある場合には転移巣と判断され,転移巣の存在により悪性と診断可能である. 褐色細胞腫は病理学的にも良・悪性の鑑別が容易でなく,初発時に良性と診断されていても,長期にわたる経過観察で再発や転移が発見され,その時点で悪性と診断されることが少なくない.増殖が遅いことが多いのも特徴の一つである.悪性褐色細胞腫の診断は転移巣を正しく診断することが重要で,それが適切な治療方針決定に結びつく. 悪性褐色細胞腫の画像診断として18F-uorode-oxyglucose(FDG)positron emission tomography(PET)(FDG PET)も有用である.特に全身の評価により原発巣と転移巣の診断ができる点で役立つ.前述のように,原発巣の形態から悪性と診断することには限界があるため,代謝を評価するPETなどの診断法が良・悪性の鑑別に有効な可能性がある. 本項では画像検査法ごとに,検査の実際と診断における有用性ならびに限界について述べる.CT CTは,病変の形態やX線の透過性で腫瘍の特性を評価する画像診断法である.腫瘍が大きいこ❶画像診断としてCT,MRI,123I-MIBGシンチグラフィ,FDG PETなどが行われる.❷“悪性”褐色細胞腫に特異的な画像診断法はなく,転移巣を的確に診断する必要がある.❸転移巣の診断には,FDG PETのほか,123I-MIBGシンチグラフィやFDG以外の疾患特異性の高い放射性薬剤によるPETも有用である.第2章 悪性褐色細胞腫――A 悪性診断に必要な画像検査福島県立医科大学先端臨床研究センター 織内 昇CT,MRI,MIBGシンチグラフィ,FDG PETと,辺縁が不規則であること,内部構造が不均一であることなどが悪性を疑う所見であるが,良性でもこれらの所見を呈することは少なくない.悪性褐色細胞腫の原発巣は5 cm以上と大きく,内部が不均一なCT値を示すことが多い(図1a).CTは空気と組織の濃度分解能がすぐれているため,肺の小さな転移の診断に役立ち(図1b),空間分解能がすぐれているため,周囲の臓器との位置関係などが明瞭に観察できる.さらに,時間分解能にも秀でているため,動脈相での早期濃染や遅延相の撮像による造影剤のwashoutなどを詳細に評価できる.しかし褐色細胞腫ではヨード造影剤の使用が原則禁忌であることに注意が必要である(「褐色細胞腫クリーゼの治療」p. 57表2参照).昇圧発作の発症が危惧される場合には,注射用のフェントラミン(レギチーンⓇ)をあらかじめ用意しておくべきである. CTは,副腎や神経節の原発巣の診断や全身評価による転移巣の診断に有用であるが,腫瘍特異的でないため,転移巣や術後再発の診断には限界がある.MRI 褐色細胞腫はMRIのT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈する(図1c)ことが多いが,特異的ではない.chemical shift imagingという方法で腫瘍に脂肪が存在しないことを確認することでMRIは高い診断能を有するが,CTと同様に褐色細胞腫の良・悪性の鑑別は困難である. 拡散強調MRIで体幹部を広範囲に撮影して,悪性褐色細胞腫の転移巣を診断することが試みられている1).拡散強調MRIは,組織中での水分子の拡散を指標とした画像である.組織が浮腫をきたしている場合には,水分子のブラウン運動が低下し水素原子からの信号が変化することを利用するもので,例えば脳浮腫の際の信号変化から,脳梗塞を急性期に診断することが可能である.一般臨床医のためのPoint
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