2262褐色細胞腫診療マニュアル 改訂第3版
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Ⅱ 臨床編118●●●疫 学 妊娠中に褐色細胞腫に罹患することは稀で,妊婦の0.007%と報告されている1).1970年代までは母体と胎児の死亡率は各々12~18%,40~50%,出産後に診断・治療された例では,母体と胎児ともに死亡率は約50%であった.2000年以降の報告では母体と胎児の死亡率は各々8%,17%で,出産前に診断・治療された例では各々0%,12%と低下しているが,出産後に診断・治療された例では母体と胎児ともに29%と依然高い2).主要症候 多くの症例は非妊娠症例と同様の褐色細胞腫に特徴的な症状(高血圧,動悸,胸痛,発汗,腹痛,嘔気など)を示し,妊娠週数が進むにつれて症状が出やすい.子宮の増大,胎児の胎動,子宮収縮,腹部の触診などにより,褐色細胞腫が機械的に刺激されることが原因とされ3),時に褐色細胞腫クリーゼを誘発することがある.しかし高血圧や頭痛などは妊娠高血圧症でもみられる所見であり,褐色細胞腫との鑑別が難しい.妊娠高血圧症では①発作性の高血圧は稀,②妊娠20週以降から血圧が上昇する,③起立性低血圧は稀,④浮腫・尿蛋白を認めることが多い,などの点が褐色細胞腫と異なる.検査・診断1生化学的診断 まずカテコールアミン過剰を証明するため機能検査を行う.妊娠時に特異的な血中・尿中カテコールアミン値の診断基準は今までに報告がないため,非妊娠時の基準値を参考に判定する(「機能検査」p. 33参照).ただし,健常妊娠女性において血中・尿中カテコールアミンは,非妊娠時と比較して同程度か軽度高値となり,また前子癇の状❶生化学的診断は非妊娠症例と同様に行う.❷画像検査は超音波検査が安全性・簡便性に優れている.MRIを実施する場合は患者に胎児への安全性が確立されていないことを説明し,同意を得て行う.❸α遮断薬は術前の全身管理と血圧コントロールの目的で,投与が推奨される.❹褐色細胞腫の手術前の分娩では自然分娩は避け,帝王切開を行う.第3章 特殊な条件下における診断と治療国立病院機構京都医療センター内分泌・代謝内科 立木美香妊婦における褐色細胞腫1態でもカテコールアミンは軽度高値となることから注意が必要である.クロニジン試験は,クロニジンの妊婦に対する投与は禁忌ではないが,治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ実施するべきで,通常は実施の必要性は低い.2画像診断 機能検査で褐色細胞腫が強く疑われた場合のみ,腫瘍の局在診断を目的に画像検査を行う.超音波検査は安全性,簡便性の点から第一選択として施行されるが,小さな腫瘍や副腎外褐色細胞腫における診断の感度は限られており,腫瘍を認めない場合でも褐色細胞腫の否定はできない.MRI検査は副腎外褐色細胞腫や妊娠後期の症例で有用との報告があり3~5),必要性があれば超音波検査の代替として施行する.しかし施行する際には,胎児に対する安全性が確立されていない点を患者に説明し,必ず同意を得る.また器官形成期である妊娠初期(14週未満)の検査は避ける.ガドリニウム造影剤は妊婦と胎児に対する安全性が確立されていないため使用しない.CTやMIBGシンチグラフィは胎児の被曝の点から推奨されない.治 療1内科的治療 手術前にα遮断薬を投与して血圧管理を行うことにより,母体の死亡率が低下することから,α遮断薬は投与すべきと報告されている6).しかし,どの薬剤をいつから開始すべきかについてのエビデンスはない.表1に非妊娠例の褐色細胞腫に対して使用される降圧剤につき,添付文書中の妊婦に対する投与に関する記載をまとめた.α遮断薬も,添付文書では治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与されるべきとされているが,通常,術前管理や血圧コントロール目的にその投与が推奨される.頻脈を認める際にはβ遮断薬の投与を検討するが,胎児の臨床医のためのPoint

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