2276ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017
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の治療選択を想定した質問では,GC単独,GC+CYともに大きな差はなく,わからないという意見も多数みられた.GC+POCYとGC+IVCYの治療選択を想定した質問でも同様であり,個々の治療に関しては患者の価値観・優先度は多様であると考えられた.2.3.4  正味の利益とコストや資源のバランス はどうか? 医療費を総合的に検討すべきではあるが利用可能な情報がないため,モデルケースを用いた直接医療費および薬剤費の検討を行った.GCとGC+CYの比較では,GC+CYはGCと比較し,前述のように正味の利益がおそらく上まわる.CY併用コストも発生するがバリエーションが多いため,正味の利益とコストのバランスは「一概にはいえない」とした. GC+POCYとGC+IVCYの比較では,GC+IVCYのコストは入院での投薬か外来での投薬かによっても異なり,入院治療の場合医療費の概算は114,820円/回となり医療費の増大につながる.患者負担に関しても,特定疾患医療受給者証による個々の自己負担限度額によって異なるとはいえ,入院の場合は0~23,100円/月,外来では0~11,550円/月となる.この額は,追加治療を行う際の自己負担の上限希望額(患者アンケートでは,年間3万円までが20%,6万円までが60%)を超えている.また,GC+IVCYは点滴に要する時間,点滴のスペースやスタッフなど,資源も要する.しかし重篤合併症発現はGC+POCYに比べGC+IVCYが少なく,合併症に対するコストを考慮すると,GC+IVCYでは「正味の利益のほうが多分大きい」と判断した.2.3.5  推奨のグレーディング GCとの比較において,今回のSRの対象となった研究ではGC+CYの有効性を強く示唆するエビデンスは存在しなかった.しかし,追加検討した研究ではエビデンスの信頼性は低いもののCYの優位性を示唆する報告3)があった.GC+CYはグローバルに標準療法と認知されており,寛解導入治療に関する多くのRCTにおいてもコントロール群として用いられている.一方,GC単独療法でも使用法によっては合併症のリスク因子となる.したがって,単にCYを併用するのではなく,GC投与量の抑制とCY併用の組合せが重要と考えられた.以上をふまえ,パネル会議ではGC単独とGC+CYを比較した場合は,原則としてGC+CYを行うべきであり,GC投与量の抑制によりGCの副作用を減少させる可能性を考えた.GC単独療法をすべきケースも存在することをCPG利用者に注意喚起することを前提に,GC+CYを推奨する方向で意見が一致した.また,CY投与法は正味の利益とコストや資源のバランスに配慮し,IVCYを優先させることとなった. 推奨のグレーディングに関して,上記議論をもとに推奨(強い推奨)との意見が多数であったが,すべての症例でCYを併用するわけではないこと,エビデンスの質(確実性)が「非常に低」であることから,GRADEの提唱に則り,提案(弱い推奨)とした. しかしながら,高齢者,透析を要する腎障害,易感染,など,副作用リスクが高い6,7)と考えられる場合,あるいは限局型で重症臓器病変がない場合〔限局型AAVの分類:Part 2付録「3.EULARの重症度分類」(p161),単一臓器血管炎の治療:Part 2 VIII「4.5皮膚」(p138)参照〕など,GC単独で治療するケースがあることを付記しておく. わが国のAAVではMPAが多く,RPGNを合併することが多い.ANCA陽性RPGNの治療については厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究班」が作成した「エビデンスに基づく急速進行性腎炎症候群(RPGN)診療ガイドライン2014」が提唱されている8).このCPGでは臨床重症度により分類された治療アルゴリズムが提唱されているが,このCPGでもNachmanらのエビデンス3)に加えてKDIGO,英国リウマチ学会(BSR)/英国リウマチ医療従事者協会(BHPR),EULARのCPGをふまえ,寛解導入治療には臨床重症度,年齢,透析療法の有無などを考慮したうえで,GCに加えてIVCYないしはPOCYの併用を推奨している(推奨グレードは「科学的根拠があり,行うよう勧められる」であり,本CPGと同様に弱い推奨となっている). Part 2 VI「疾患活動性の評価」(p93),VIII「2.1 グルココルチコイド」(p114),「2.2 シクロホスファミド」(p119)を参照. AAVの寛解導入治療におけるGC+CYの有用性は十分なエビデンスは存在しないものの,わが国および欧米のCPGでは強く推奨されており,多くの臨床試験でも標準療法として位置づけられている.しかしながら,CYはその薬剤特性によりすべてのAAVに対しては使用できない.特に重篤な腎障害や感染症の合併,血球減少を伴う場合にはリスクが大きいと考えられ2. 4 関連する他の診療ガイドラインの記載2. 5 治療のモニタリングと評価2. 6 今後の研究の可能性18 Part1 診療ガイドライン

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