2277小児神経専門医テキスト
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162Ⅱ.疾患各論1.トリプレットリピート病 遺伝子の3塩基の繰り返し配列が異常に伸長する疾患の総称(表1). 最も多い翻訳領域内のCAGリピートの過伸長の場合,ポリグルタミンが形成され細胞障害をきたすことが知られ,ポリグルタミン病と総称される. トリプレットリピート病1)では,一般的に世代を経るに従い症状が早期発症し重篤となる.これを表現促進現象(anticipation)とよぶ.異常リピートがさらに伸長することが原因.1)歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentato—rubro—pallido—luysianatrophy:DRPLA)概念 日本で頻度の高い脊髄小脳変性症(spinocer-ebellar ataxia:SCA)の1つ(日本で多いSCAは,SCA3,6,31,DRPLA).優性遺伝形式を示し発症年齢により症状が異なる.原因 12番染色体短腕上にあるDRPLA(ATN1)遺伝子の蛋白翻訳領域のCAG繰り返し配列(トリプレットリピート)の異常伸長による(通常は35リピート以下,本症患者では48リピート以上).常染色体優性遺伝形式をとる.症状 成人で発症すると,小脳性運動失調,舞踏アテトーゼ,ジストニア,認知症などを呈し緩徐進行性である.小児期に発症すると,けいれん発作,知的退行,ミオクローヌス,小脳性運動失調などを呈し,数年間の経過で常時臥床状態となる.進行性ミオクローヌスてんかん(PME)の原因の1つである.表現促進現象によりCAG繰り返し配列が90リピートに伸長すると筋強剛が主症状の乳児重症型となる.小児例は父親由来が多い.検査 頭部MRIでは小脳と脳幹(特に橋背側)萎縮を呈し,経過が長いと大脳萎縮および大脳深部白質に信号異常(T2強調画像で高信号)を呈する(図1).PMEをきたす場合,脳波では広範な棘徐波複合を頻回に認める.体性感覚誘発電位(SEP)で高振幅波を認めることがある(giant SEP).血液検査では特異的異常なし.確定診断は遺伝子診断である.発症前診断につながる可能性があるので,必ず両親には検査前に遺伝カウンセリングを受けてもらう.治療 確実な治療は確立していない.対症療法として,抗てんかん薬治療,栄養管理,感染管理,呼吸管理など.2)Huntington病概念 舞踏病・ジストニアを呈す線状体萎縮を中心とした遺伝性神経細胞変性疾患.原因 4番染色体短腕上にあるHuntingtin遺伝子のCAGリピートの延長により発症する.常染色体優性遺伝性疾患でDRPLAと同様トリプレット(CAG)リピート病である.グルタミン酸が伸長した異常蛋白質が神経細胞に蓄積して細胞死をきたす.症状 成人発症では進行性の舞踏病運動が主症状である.性格変化や知的退行を伴うことも多い.20歳以下の発症は若年型とされ,舞踏病運動よりも筋強剛が主徴となる.表現促進現象を示し,世代を経ると発症年齢が早くなる傾向がある.小児例は父親由来が多い.検査 頭部CT,MRIで側脳室前角の開大,特に尾状核頭部の萎縮が強い.被殻の萎縮も伴い信号変化(T2高信号)を呈することもある(図2).血液検査では特異的異常なし.遺伝子診断の際には発症前診断につながる可能性があるので,家族には事前に十分な遺伝カウンセリングが必要である.治療 確実な治療は確立していない.舞踏運動にはハロペリドールを使用する.3)Machado—Joseph病概念 錐体路徴候・錐体外路徴候・末梢神経症状を伴う頻度の高い脊髄小脳変性症.原因 14番染色体長腕上にあるMJD遺伝子内のCAGリピートの異常伸長により発症する.正常は47リピートまでで,患者は53から89リピートを示す.常染色体優性遺伝形式を示し,表現促進現象がある.症状 発症時期にかかわらず,失調性歩行,構音障害,眼球運動制限を認める.早期発症型は,30歳以神経変性疾患5

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