2277小児神経専門医テキスト
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66Ⅰ.総 論 小児神経に関連する疾患の種類は膨大であり,鑑別すべき疾患は数多い.一般小児科と異なり,小児神経専門医は頻度が高いcommon diseasesだけでなく,希少疾患についても知っておく必要がある.特に,治療可能な疾患と遺伝相談が必要な疾患については,児と家族の将来を左右するため見逃してはならない.また,診断が症状を意味しているだけなのか(自閉スペクトラム症,知的発達症〈知的障害〉,てんかん,脳性麻痺など),原因診断ができているのか(Rett症候群,脆弱X症候群,Dravet症候群,脳室周囲白質軟化症など)を意識し,前者ならその原因の鑑別を考える必要がある. 本項では,小児神経専門外来で遭遇する主要な主訴に対する鑑別すべき診断と検査計画について述べる.疾患の詳細については各論および参考文献を参照されたい.1.意識障害(表1) 意識障害は,脳幹網様体もしくは大脳皮質の広汎な機能低下による覚醒状態の量的低下を示す意識混濁の他に,大脳皮質機能障害による軽度の意識混濁に行動,認知,記憶などの質的変化を伴う意識変容がある.意識障害(意識混濁)の程度は,Japan Coma Scale(JCS)もしくはGlasgow Coma Scale(GCS)により量的に評価され,それぞれ乳児用の改訂版が作成されている(p.41 I⊖6 診察法 参照).失神は,大脳血流低下による短時間(通常数分以内)の意識障害である.意識変容の典型はせん妄(delirium)であり,熱せん妄,急性脳症,中毒性疾患が多い.自閉スペクトラム症児などでは,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)によるセロトニン症候群(せん妄,発熱,発汗,頻脈)に留意する必要がある.意識障害の特殊型として,無動性無言症,失外套症候群,植物状態,脳死があげられる.類似状態として,閉じ込め症候群,極度に強い睡眠,非けいれん性てんかん重積状態があり,鑑別には脳波が有用である. 多くは急性発症であり,ショックの有無をまず鑑別する(図1).問診によって外因,基礎疾患を判断し,原因不明の場合は採血と頭部画像検査を行う.採血は血算,生化学一般の他に,血液培養,血糖,血液ガス,アンモニア,乳酸と尿ケトン体をファーストラインとして検査する.鑑別診断8表1 小児の意識障害の原因外因性• 事故:頭部外傷(脳挫傷,びまん性軸索損傷),虐待(揺さぶられっ子症候群),溺水,窒息,一酸化炭素中毒,大量出血,熱中症,低体温症•感染症:敗血症,脳炎,髄膜炎,脳膿瘍,心筋炎,溶血性尿毒症症候群• 中毒:薬剤性(鎮静薬,解熱薬,麻薬,向精神薬,免疫抑制薬),毒物(有機リン剤,アルコール,違法薬物),食物(即時型食物アレルギー,銀杏,毒キノコ)内因性•心原性:不整脈,心筋梗塞,心筋症,原発性肺高血圧,大動脈弁狭窄•血管性:起立性調節障害,血管迷走神経反射,高血圧,血管炎,脱水,出血•呼吸性:低酸素血症,CO2ナルコーシス,過換気症候群•脳血管性:頭蓋内出血,脳梗塞,静脈洞血栓症,もやもや病,高安動脈炎•神経疾患:てんかん,熱性けいれん,急性脳症,低酸素性虚血性脳症,片頭痛,脳腫瘍,水頭症,心因反応•免疫関連:急性散在性脳脊髄炎,Bickerstaff脳幹脳炎,多発性硬化症,ループス脳炎,サルコイドーシス,Sjögren症候群•内分泌異常:副腎機能不全,甲状腺機能低下症,下垂体腫瘍•電解質異常:高/低ナトリウム血症,高カルシウム血症,浸透圧性脱髄症候群• 代謝異常:低血糖,代謝性アシドーシス,高アンモニア血症,尿毒症,肝不全(劇症肝炎,Wilson病),Wernicke脳症(ビタミンB1欠乏),先天代謝異常症(尿素回路,有機酸,脂肪酸,インスリン,糖新生,ミトコンドリア,アミノ酸)

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