2283女性内分泌クリニカルクエスチョン90
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Q79 タモキシフェンの子宮内膜に対する副作用とその対策は? 19717乳癌与例ではプラセボ群と比較して子宮内膜癌および子宮肉腫の発生率がともに高くなると報告している4).タモキシフェン投与中の子宮内膜のフォローアップ 現時点で,タモキシフェン投与中の子宮内膜フォローアップについては適切なスクリーニング法は存在しない.実臨床では経腟超音波検査または子宮内膜組織診が現実的なスクリーニング法とされているが,推奨できるだけの十分なエビデンスはない5)~7).米国産婦人科学会(The American College of Obstetricians and Gynecologists : ACOG)は,タモキシフェン投与開始前に婦人科的な評価を行い,さらに毎回の受診時にフォローアップにおいても婦人科的な評価を行うべきであるとしている8).このようにTAM投与女性に対するスクリーニング法について一定の見解は得られていないものの,子宮内膜癌や子宮肉腫を発症した女性の初期症状の多くは不正性器出血であり,担当医はTAM内服歴を確認して,精査を行うなどの対応が不可欠である.TAMによる乳癌予防と合併症対策 TAMは遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome:HBOC)の原因遺伝子であるBRCA1またはBRCA2の遺伝子変異保持者に対して,乳癌未発症者に対する乳癌のリスク低減を目的として投与される場合もある. NSABPはBRCA1/2変異陽性で乳癌未発症の女性に対する乳癌発症予防効果について報告している.同報告よるとTAMはBRCA2遺伝子変異保持者の乳癌発症リスクを62%減少させるものの,BRCA1遺伝子変異保持者においては乳癌発症リスクを低減しないとされる9).これはBRCA1変異陽性乳癌乳癌の多くがトリプルネガティブであるのに対しBRCA2変異陽性乳癌ではホルモン受容体陽性乳癌が多くを占めることによると考えられる.しかし,本解析中の288名の乳癌発症者のうち,BRCA1遺伝子変異保持者は8名,BRCA2遺伝子変異保持者は11名と,BRCA1/2変異陽性例が少数であったことに留意すべきである. 以上のようにTAMは乳癌発症者のみならず,乳癌未発症者に対しても投与されていることがあり,このような例では乳癌の早期発見と子宮に対する合併症の双方に留意する必要があるが,乳癌高危険群の女性集団に対するTAM投与例における乳癌イベント発生数の減少幅は,子宮体癌イベント発生数の増加幅を上回っているとされている.TAM以外のSERMの子宮内膜に対する作用 TAM以外のSERMとしてはラロキシフェン(raloxifene:RLX)やバゼドキシフェン(bazedoxifene:BZA)などがあり,わが国でこれらは閉経後骨粗鬆症治療薬として使用されている.RLXは,MORE(Multiple Outcome of Raloxifene Evaluation)試験において子宮内膜癌発生率増加との関連は示されなかった10).またSTAR(Study of Tamoxifen and Raloxifene)試験によると,RLX群ではTAM群と比べて浸潤子宮内膜癌の発生率が有意に低かった(RR 0.55,95% CI 0.36-0.83)11).文献 1) Chalas E,et al:Am J Obstet Gynecol 2005;192:1230-1237. 2) Fisher B,et al:J Natl Cancer Inst 1998;90:1371-1388. 3) Fisher B,et al:J Natl Cancer Inst 2005;97:1652-1662. 4) Wickerham DL,et al:J Clin Oncol 2002;20:2758-2760. 5) Barakat RR,et al:J Clin Oncol 2000;18:3459-3463. 6) Fung MF,et al:Gynecol Oncol 2003;91:154-159.

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