2285リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン 第2版
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31安全管理総論9月の1年で728件のヒヤリ・ハット報告が収集され,内訳は骨折・筋断裂等が458件,全身状態の悪化が75件,患者取り違えが10件,熱傷が9件,義肢装具に関するもの4件,誤嚥・誤飲・窒息が3件,その他169件となっている3‒8). 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会による2007年9月のアンケートでは201病院から回答が集まり,医療安全上の問題として転倒182件,離院・離棟85件,誤嚥76件,誤薬65件,急変時対応55件,認知暴力37件,クレーム31件,感染28件,事故訴訟8件,危機管理(大規模災害)8件,深部静脈血栓症(DVT)6件,セクハラ(セクシャルハラスメント)5件の回答があり,転倒が最も多かった9). リハビリテーション医療において頻度の多い有害事象,インシデントとしては転倒・転落,誤嚥等があり,原疾患あるいは併存症の悪化による急変等も起きている.また,高次脳機能障害,認知症のある患者を扱うこともあり,入院患者では離院・離棟のリスクもある.訓練室では温熱療法時の熱傷のリスク,歩けない患者に訓練をするので転倒のリスクも常にある.また,多職種によるチームで医療を提供しており,チーム内でのコミュニケーションエラーのリスクも無視できない.リハビリテーション治療を実施する際の留意事項,中止基準等を明確にし,有害事象について患者の理解と同意を得る努力も必要である.2. 安全管理対策の効果 井上らは新人理学療法士に対する転倒予防の新たな教育プログラムが訓練中の転倒を減少させるかを検証した.新人理学療法士一人あたりの年間転倒発生件数が導入前は1.1±0.1件,導入後に0.5±0.5件と半減し,介助歩行時の転倒が減少したと報告している10). Klepmらはプライマリー・ケアにおけるインシデントレポートシステムの効果についてシステマティックレビューを試み,有識者パネルの見解等も含めてレポートシステムの有効性を報告している11). レベルの高いエビデンスはないが,安全管理について対策を行うことの効果は示されており,リハビリテーション医療においても安全管理対策を実施することが求められる.3. リハビリテーション医療における安全管理が必要な理由 医療の質と安全を確保することは医療機関にとって当然行うべきこととなっており,リハビリテーション医療についても質改善と安全確保が求められる.安全管理を行わない場合との比較を行うことは倫理的に不可能であり,安全対策が必要であることを証明できるレベルの高いエビデンスはない.しかし,何らかの安全管理対策を行うことの効果は介入研究として報告されている.いずれにしろ,「人は間違える」という前提にたった組織的な介入が求められている12). 急性期病院で在院日数は年々短縮し,より早い時期からの介入が一般的になっており,以前よりも疾患の増悪,急変のリスクは高くなっている.また,感染管理については,訓練時に患者との接触時間が長く,多くの病棟の患者を担当することも多い.接触性の感染を医療職が媒介するリスクもあり,訓練室には易感染性のある患者も含め多くの患者が集まる状況であり,空気感染,飛沫感染のリスクは大きい. 手術部門,集中治療部門等と比較して致死的な有害事象は少ないが,リハビリテーション医療は潜在的にリスクがある中で医療を提供しており,他の分野に増して安全管理の充実が必要である.実際に病棟,訓練室で事故,インシデントが起きており対策が求められている.インシデント報告や外部からの情報を集めて,RCA(Root Cause Analysis:根本原因分析)やSHELモデル,4M‒4E法等を用いた原因分析等を行い,対策を検討し,単に「注意しましょう」でなく,具体的な対策を立

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