2285リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン 第2版
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III 安全対策60エビデンス1. 転倒の発生頻度 医療機関で発生する事故の中で転倒は上位に位置するものである1).病院入院中の患者の転倒発生率は,入院延べ患者数を分母として転倒発生件数/1,000人・日と表現されることが多い.入院延べ患者数は,入院患者実数を対象期間(日)の合計で示すものである.英語圏においても同様に算出され,“falls/1,000 patient days”と表記される. 転倒の発生率は報告により1.7~25/1,000人・日と大きな開きがみられる1).米国での大規模データベースを使用した約11万件の入院中に生じた転倒事故の分析では,平均3.32/1,000人・日の転倒事故が生じたとしている2).同様に英国での大規模データベースを使用した約20万件の入院中の転倒事故の分析では,平均4.8/1,000人・日(95%信頼区間4.3~5.4/1,000人・日)とされている3).わが国では日本病院会のQIプロジェクト4)において,医療の質を表す指標(Quality Indicator:QI)を測定している.その中で,転倒転落事故の発生率も測定されている.転倒転落発生率は,平均値2.64/1,000人・日となっている. 転倒の発生率は病棟の種別によって差がみられており,一般病棟よりもリハビリテーション病棟や高齢者病棟で転倒の発生率は高いとされている2,5).わが国の報告においても,回復期リハビリテーション病棟での転倒発生率は,4.6~13.9/1,000人・日であるとされている6‒9).2. 転倒による影響 転倒による衝撃により頭部や四肢体幹等の外傷を生じることが最大の問題となる.入院中の患者に発生した転倒事故により何らかの外傷を生じたのは30~51%とされている10).また,日本病院会のQIプロジェクト4)では転倒による損傷発生率を報告している.損傷発生率(損傷レベル2以上)の1年間の平均は,平均値0.72/1,000人・日,損傷発生率(損傷レベル4以上)は,平均値0.05/1,000人・日であったとしている. 重症の外傷としては,出血や裂創54%11),骨折や脱臼16~70%11‒13),頭蓋内出血8~23%12,13)が報告されている.骨折の中では大腿骨近位部骨折が多くを占めている12,14).そのほかに頻度が高い骨折としては,上肢の骨折12,14)や肋骨骨折12)等がみられている.頭蓋内出血の頻度は比較的低いものの,複数の症例が死に至ったとする報告もみられる14). 大腿骨近位部骨折は頻度が高いものであるが,長期的に歩行能力の低下が残存する症例も少なく 転倒発生率(/1,000人・日)=(転倒発生件数/入院延べ患者数)×1,000第3章 安全対策1 転倒事故CQ 1‒1転倒対策はなぜ必要か?推 奨 ▶医療機関において発生する事故として転倒は頻度が高く,骨折や頭蓋内出血等,重大な結果を生じる危険性もある.このため,転倒リスクのスクリーニングや予防対策を実施することを推奨する.●グレード▶1C 推奨の強さ▶強い推奨 エビデンスの確実性▶弱

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