1 転倒事故613安全対策ない15,16).さらに骨折後1年間での死亡率は約10%ともされ,生命予後にも影響を与えるものである15).そして院内受傷の大腿骨近位部骨折患者は,院外で受傷した大腿骨近位部骨折患者よりも生命予後や機能予後が不良であるとする報告もある17,18). また,転倒の経験から「転倒恐怖」が残存することもある.転倒恐怖は「身体能力が残されているにもかかわらず,活動を避けようとする永続した恐れ」とされている19).転倒恐怖の頻度は高齢者の12~65%に生じるとされ,転倒経験者では29~92%になるとされている20).そして,転倒恐怖を感じている症例では歩行能力が低下するとされている21,22).さらに転倒恐怖がある患者では機能改善が有意に不良であるとする報告もみられる23).解説 医療機関で発生する事故として転倒は頻度が高いものである.日本病院会のQIプロジェクトで示されている転倒転落発生率の平均値2.64/1,000人・日は,仮に病院が満床であったと仮定すると,病床1に対して,年間1件の転倒事故を生じる計算となる.すなわち100床の病院が100%の病床稼働率で運用されたとすると,年間100件の転倒事故が発生していることとなる.同様に100床の病院において平均値0.05/1,000人・日の頻度でレベル4以上の事故を生じると仮定して計算すると,年間1.8件の重大事故が発生する見積もりとなる. 転倒の結果として重大な問題となるものは骨折と頭部外傷である.骨折の中で特に頻度が高く,影響も大きいものは大腿骨近位部骨折である.頭部外傷の頻度は低いものの,結果は重大なものとなるため,特に慎重な対応が必要である. このように転倒事故の頻度は高く,患者に与える影響も大きいことから,医療機関においてリハビリテーション医療を行う際には十分な転倒対策が必要であると考えられる.その一方で,転倒を恐れて必要以上の活動制限を行うことになると,廃用症候群の危険性が上昇し,リハビリテーション医療の視点からは害の大きい対応となる.活動性を向上することによる「益」と,転倒による有害事象という「害」のバランスを考慮して対応方法を総合的に判断することが必要である.❖文献 1) Agency for Healthcare Research and Quality. Preventing Falls in Hospitals. A Toolkit for Improving Quality of Care. https://www.ahrq.gov/professionals/systems/hospital/fallpxtoolkit/index.html(2018年1月31日閲覧) 2) Lake ET, Shang J, Klaus S, et al. Patient Falls:Association with Hospital Magnet Status and Nursing Unit Staffing. Res Nurs Health 2010;33:413‒25. 3) Healey F, Scobie S, Oliver D, et al. Falls in English and Welsh hospitals:a national observational study based on retrospective analysis of 12 months of patient safety incident reports. Qual Saf Health Care 2008;17:424‒30. 4) 日本病院会.2015年度QIプロジェクト結果報告. https://www.hospital.or.jp/pdf/06_20161118_01.pdf(2018年1月31日閲覧) 5) Schwendimann R, Buhler H, De Geest S, et al. Characteristics of hospital inpatient falls across clinical departments. Gerontol-ogy 2008;6:342‒8. 6) 鈴木 亨,園田 茂,才藤栄一,他.回復期リハビリテーション目的の入院脳卒中患者における転倒,転落事故とADL.リハ医2006;43:180‒5. 7) 土田聖司.当院における転倒・転落事故防止対策の現状報告回復期リハビリテーション病棟と急性期病棟の比較.Osteoporo Jpn 2007;15:331‒2. 8) Teranishi T, Kondo I, Tanino G, et al. An analysis of falls occurring in a convalescence rehabilitation ward a decision tree clas-sification of fall cases for the management of basic movements. JJ Compr Rehabil Scie 2013;4:7‒13. 9) 大高洋平(編).回復期リハビリテーションの実践戦略 活動と転倒.医歯薬出版,2016. 10) Oliver D, Healey F, Haines TP. Preventing falls and Fall‒Related Injuries in Hospital. Clin Geriatr Med 2010;26:645‒92. 11) Fisher ID, Krauss MJ, Dunagan WC, et al. Patterns and predictors of inpatient falls and fall‒related injuries in a large academic hospital. Infect Control Hosp Epidemiol 2005;26:822‒7.
元のページ ../index.html#7