IV 感染対策100解説1. 医療関連感染の頻度と,生じる問題 医療関連感染(Healthcare‒Associated Infection)は医療機関において生じる,患者が原疾患とは別に新たに生じた感染,および医療職が新たに生じた感染である.院内感染,あるいは病院感染と表現される場合もある. 医療関連感染は患者から患者へ直接,あるいは医療職や医療機器,環境等を介して伝播する.医療関連感染による影響としては,入院期間の延長,長期に及ぶ障害,経済的負担の増大,死亡率の増加等があげられる1). 医療関連感染の発生頻度は報告により様々であるが,WHOによるガイドラインでは,入院患者の5~15%に医療関連感染が発生するとされている1). 米国での医療関連感染の罹患率は4.5%と推定されている.9.3/1,000人・日の発生率であり,年間170万人の患者が影響を受けているとされている.ここでは9万9千人が医療関連感染により死亡していると見積もられている2).近年の米国からの報告では,入院患者の4.0%(95%信頼区間:3.7~4.4%)で医療関連感染が発生していた.頻度が高いものとしては,肺炎21.8%,手術部位感染21.8%,腸管感染症17.1%であった3). 欧州の大規模な急性期病院の調査においては,医療関連感染は5.7%(95%信頼区間:4.5‒7.4%)とされている.頻度が高いものとしては,呼吸器感染(23.5%),手術部位感染(19.6%),尿路感染(19.0%),菌血症(10.7%),腸管感染(7.7%)が挙げられている4).このように肺炎は高頻度にみられているが,死に至る危険性もある重大な合併症である. 近年では多剤耐性菌の罹患率が上昇しているとされている5).多剤耐性菌による感染症はしばしば治療抵抗性である.このため,さらに入院期間は長期化し,医療費は増大し,死亡率が上昇する可能性がある. わが国においては厚生労働省が院内感染対策サーベイランス事業を行っている.そこでは多剤耐性菌に関する集計が行われている.多剤耐性菌による感染症の頻度としては肺炎が最多であり40.4%を占めていた.感染症の原因菌としてはMRSA(Methicillin‒Resistant Staphylococcus Aureus)が最多であり,2016年のデータでは入院患者の3.1%に発生していた6). 医療関連感染による経済的損失も社会的な問題となる.医療関連感染に伴う経済的影響は米国では年間65億ドル,欧州では130~240億ユーロになると見積もられている1). 医療関連感染はコストの増大や在院日数の長期化等,病院経営的な損失も大きい.手指衛生を中第4章 感染対策CQ 1感染対策はなぜ必要か?推 奨 ▶医療関連感染は発生頻度が高く,治療結果に重大な影響を与える可能性がある.このため,感染対策を実施することを推奨する.●グレード▶1B 推奨の強さ▶強い推奨 エビデンスの確実性▶中
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