2285リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン 第2版
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1014感染対策心とした予防策に必要な費用と,MRSAを発症した際に必要となる費用の比較を行った報告では,投資に見合った経済効果がみられるとされている7). 医療関連感染に関して様々なガイドラインが発行されている.ガイドラインとしては手指衛生に関するものが多くを占めている.米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Preven-tion:CDC)8)によるものと,世界保健機関(World Health Organization:WHO)1)によるものが代表的である.わが国においても国公立大学附属病院感染対策協議会から,国公立大学附属病院を対象とした病院感染対策ガイドラインが発行されている9).2. リハビリテーション医療と医療関連感染の関係 医療職の手指は患者との直接接触や呼吸ケアにより重度に汚染される.そしてケアが長時間となるほど直線的に手指の細菌汚染は進行する10).また病棟別の比較においてはリハビリテーション病棟で細菌汚染は重度であったとしている10). リハビリテーション医療においては療法士による徒手的な訓練が主な治療手段となる.この際,療法士と患者は手指等による直接的な接触が多い.また,治療機器は複数の患者で共有されることが多いため,間接的な接触による伝播を生じる可能性もある.さらに1単位20分という長時間にわたりこのような状況が継続する.このため,リハビリテーション治療は接触感染の危険性が高い医療行為と考えるべきである.しかも患者と長時間にわたって接近しているため,飛沫感染や空気感染の危険性も高いと予想される. リハビリテーション医療の対象となる患者は,急性期リハビリテーションの普及や対象疾患の多様化により,虚弱な患者が増加しているものと予想される.CDCのガイドラインでは,「脆弱な患者は他の多剤耐性菌を磁石のように吸い付け続ける」と記載されている5).リハビリテーション医療の対象患者は感染症に罹患しやすく,重篤化しやすい可能性が高いと考えて対応する必要がある. そして療法士は訓練室のみでなく,医療機関内の様々な場所において治療を提供することがある.このため,病原微生物を医療機関内の広範囲に伝播させる危険性をもっている. これらのことから,リハビリテーション医療は医療関連感染に深く関連していると考えるべきであり,十分な感染対策を実施することが推奨される. また,リハビリテーション医療の現場には医療職と患者以外に,患者家族,実習生,外部の業者等,様々な人々が出入りする.医療関連感染の対策は,これらの人々においても実施されることが必要である.3. 外部評価 病院機能評価において,感染対策は評価の対象となる.評価項目としては,医療関連感染制御に関する組織体制,医療関連感染制御に関するマニュアル・指針の作成と必要に応じた改訂,院内での感染発生状況の把握,院外での流行情報等の収集,収集したデータの分析と検討,アウトブレイクへの対応等があげられている11). Joint Commission International(JCI)ではInternational Patient Safety Goals(IPSG)として安全管理に関する6つの重点項目をあげている12).6項目の1つに手指衛生が含まれており,指針の作成やアップデート,現場での遵守状況のモニタリング等に念入りな審査が実施される.4. 法的な要求 法的にも医療機関には感染管理を実施することが要求されている.2007年4月に施行された改正医療法により,すべての医療機関において院内感染対策の体制確保が義務づけられている.ここでは以下の4点についての規定がなされている.

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