2286腎疾患患者の妊娠:診療ガイドライン2017
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4 正常な妊娠において,さまざまな要因により,腎の構造や機能,血行動態の変化がみられる.この変化に関し,様々な研究が行われているが,いまだにすべては解明されていない.1.腎のサイズの変化 妊娠中は,血管や間質の変化により,腎容積は約30%増大し1),長径は1~1.5 cm大きくなるといわれている.尿路系の拡張もみられ,特に右腎に水腎症を生じやすい2).2.腎血漿流量,糸球体濾過量の変化 妊娠前でもホルモンの影響で月経周期によって,腎機能に変化がみられる.卵胞期に比べ黄体期は平均血圧,全身血管抵抗が低下し,心拍出量,腎血漿流量(RPF),糸球体濾過値(GFR)は増加する3).この変化は妊娠成立後も継続し,GFRは妊娠4週で20%,9週で45%増加,満期に40%増加する.妊娠初期にはRPFのほうが増加するため,濾過率(FF)はやや低下する.妊娠12週から妊娠後期にかけてRPFは非妊娠時レベルまで低下するが,GFRは上昇し続けるため,FFは上昇する4).これらの値は出産後4~6週で非妊娠時の状態に戻る. 妊娠初期には,プロゲステロンがRPF,GFR増加に関与しており,妊娠中も継続して作用する.RPFとGFRの変化は,その他,いくつかのホルモンと多くの機序が関与している5).3.循環血漿量,血圧の変化 妊娠中は腎以外に卵巣と脱落膜からレニンが産生され,またエストロゲンの影響により肝でアンジオテンシノーゲンが産生されるため,レニンおよびアルドステロンは上昇する3‒6).RAS系の活性化の影響で,ナトリウム貯留と循環血漿量の増加が起こる.ナトリウムは900~1,000 mEq貯留され,体液は6~8 L貯留される5).それにもかかわらず,様々な要因により,血管拡張が起こり血圧は低下する.プロゲステロンとプロスタサイクリンはアンジオテンシンⅡに拮抗し,加えてアンジオテンシンⅡtype 1受容体は感受性が低下する6).ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の刺激により黄体から産生されるレラキシンも血管拡張に関連しており,血管内皮増殖因子(VEGF)や,一酸化窒素(NO)の関与とともに研究が進められている7,8).4.検査所見 以上の変化により,検査所見としては,赤血球容量の増加に比べて,循環血漿量の増加の程度が大きいため,ヘマトクリット値の低下がみられるほか,クレアチニン(Cr),血液尿素窒素(BUN)も低下する.血清Naの低下,血清浸透圧の低下も認められる. また,尿酸クリアランスは妊娠時に上昇するため,妊娠初期には血清尿酸値はやや低下する.妊娠末期にかけて尿酸クリアランスは低下し,血清尿酸値が上昇する傾向にあるが,妊娠高血圧腎症ではさらに上昇する.尿酸値の絶対値をもって,妊娠高血圧腎症を予知するのは困難であるが,注意が必要である9).Ⅱ妊娠が腎臓に及ぼす生理的な影響

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