2286腎疾患患者の妊娠:診療ガイドライン2017
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16解 説 腎疾患患者には,降圧および腎保護作用を目的としてレニン‒アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACEI,ARB)を用いられることが多い.妊娠中期以降のこれらの内服は児への薬理作用により,児の腎機能障害,羊水減少,死産,発育遅延などが認められ,禁忌であることは明らかである1‒6).妊娠初期の使用は問題ないとの見解であったが,2006年のCooperらの報告ではACEIを使用した群で降圧薬を使用していない群と比較して,奇形が(特に心奇形,神経管奇形)2.7倍であった1).しかし,妊娠中に服用していても,妊娠5~8週に中止し正常な児を得た報告3),妊娠22週に中止することにより羊水量が正常化し,児の合併症も認めず出産し得たとする報告がある6).また,妊娠初期では奇形の発生率に他の降圧薬(ACEI 8.5%,他の降圧薬6.9%,高血圧患者7.2%)と差はなく,高血圧患者は無治療でも,奇形率は正常者に比較すると上昇しており,ACEIの影響ではないとの報告7),妊娠初期の使用での奇形は増加していないが,自然流産が多かったとの報告がある8).さらに,1型糖尿病患者の検討では,妊娠8週までにすべての薬剤を中止し,カンデサルタン群,プラセボ群で正期産,早産,自然流産,人工中絶はともに差はなかった.妊娠第1期に限定すれば,1型糖尿病におけるARBの使用で,胎児へのリスクは高くなかった9). 胎児への安全性を鑑み,妊娠可能な女性へのRAS阻害薬の投与には慎重になるべきであり,妊娠を希望した時点で薬剤の変更を考慮すべきである.内服中の患者への,妊娠に関する十分な教育も必要であり,内服中に妊娠が明らかとなった場合は,可及的速やかに中止すべきである.一方,腎保護作用を期待して内服継続している患者にとっては,妊娠を希望した時点での薬剤の変更は腎機能悪化の不利益を被る可能性もあり,催奇形性は他の降圧薬とほぼ同等であるという十分な説明の上,妊娠成立まで継続することも選択肢のひとつである. Ca拮抗薬については,ニフェジピンに関するRCT 15報を解析したシステマティックレビューにおいて,ニフェジピンは,ラベタロールおよびメチルドパと同等の降圧効果を示し,母体,胎児への副作用ⅢCKD患者が妊娠を希望した場合のリスク評価CQ5高血圧合併患者が妊娠を希望した場合,降圧薬は変更すべきか?アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)およびアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は,腎保護作用が催奇形性リスクを上回ることが期待される場合は,十分な説明と同意の上,妊娠成立まで使用可能である.グレード2CACEIおよびARBの胎児毒性は明らかであり,妊娠判明後,ただちに中止しなければならない.グレード1ACa拮抗薬に関し,妊娠初期の内服により,催奇形性は上昇しないとされる.グレード2Cラベタロール,メチルドパは妊娠中も安全に使用できる.グレード1Aステートメント

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