2287骨関節画像診断入門 第4版
9/14
近年,放射線科に最も頻繁にリクエストされる画像検査は膝関節のMRである。それは,膝内障患者が多いというだけでなく,MRが膝関節内の異常を正確に描出できるからである。MRによる膝関節病変の正診率は85~95%と報告されており,多くの研究者がMRの方が関節鏡検査よりも病変を正確に描出できると報告している。どんなに優秀な整形外科医でも,MRという『道路地図』なくしては手術不可能であろう。なかには,ルーチン検査としてMRを行うのは費用がかかりすぎると考える整形外科医もいるが,実際には,膝関節鏡検査の代わりにMRを行うことにより医療費を大幅に節減できる。多くの患者において,MRを行うことにより膝関節鏡を省くことができ,正確な術前診断が可能である1。膝関節のMRは高い陰性反応適中度を有しており,そのためMRは膝内障の可能性を除外するのに大変有用である2,3。正確な診断を行うための留意点がいくつかある。第一に重要なことは,高品質の画像を得ることである。このためには適切な撮像プロトコールを使用する必要がある。不適切な撮像プロトコールといえば,膝関節のMR検査がおそらくナンバーワンであろう。第二に重要なことは,膝内障の基本的なMR所見を知ることである。第三に重要なことは,画像上の盲点(たとえば,一見病変のような正常変異)を熟知することである。この章では,適切な撮像プロトコール,基本的なMR所見,診断上の盲点について述べる。IMAGINGPROTOCOL撮像プロトコール高い正診率を得るためには,適切な撮像プロトコールを使用しなければならない。半月板の評価には,T1強調(またはプロトン密度)矢状断像が不可欠である。4~5mmのスライス厚,12~14cmの撮像領域(fieldofview:FOV),少なくとも192の撮像マトリックスが推奨される。さらに膝専用のコイルを使用して,前十字靱帯が撮像断面に平行となるように5~10度(10度以上は不適切)膝を外旋する必要がある。十字靱帯の検査では,スピンエコー法によるT2強調矢状断像またはT2*強調矢状断像をまず撮像する。スピンエコー法によるT2強調像で半月板損傷を認めるのは難しいが,プロトン密度像では描出可能である。以上のように,半月板や十字靱帯の評価はまず矢状断像で行う。冠状断像や横断像でも半月板や十字靱帯を描出することはできるが,矢状断像でわからない病変が,冠状断像や横断像で認められることは稀である。側副靱帯を評価するときや半月板関節包分離(後述)の有無を調べるときには冠状断像を撮像する。これらの病変は,しばしばT2強調冠状断像のみによって描出可能である。T1強調の矢状断像ではっきりしない病変が冠状断像で明瞭となることはほとんどなく,T1強調冠状断像は時間の無駄以外のなにものでもない。しかし,T2*強調冠状断像または高速スピンエコー法(fastspine-echo:FSE)によるT2強調冠状断像は不可欠である。脂肪抑制併用にて関節液と脂肪が鑑別できるようになる。T1強調冠状断像は何ら付加的な情報がないばかりか,時には誤診のもとになるにもかかわらず,多くの施設で撮像されている。これはいったいどうしてだろうか? われわれが初めて膝関節のMR検査を始める場合,たいていはプロトコールの中にT1強調冠状断像が組み込まれている。文献,成書,講演などでも,標準的なプロトコールは述べられているが,それぞれの撮像法でいったい何が描出できるかについての十分な言及はない。173CHAPTER9膝関節のMRMR Imaging of the Knee
元のページ
../index.html#9