2292内分泌代謝科専門医研修ガイドブック
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成長ホルモン(GH)補充療法や性腺機能低下症(二次性徴障害)に対する性ホルモン補充療法は,医学的観点のみならず,若年者の心理社会的な観点からも重要性が高く,相対的適応ではあってもQOL改善の視点から積極的加療が望まれる.小人症の加療においては骨端線の閉鎖前のGH補充開始を原則とする.そのため,性腺機能低下症を合併している場合には性ホルモン補充に伴う早期骨端性閉鎖のリスクを回避するために,GH補充を優先し,身長の伸びが十分に得られるまで,性腺機能低下症の加療開始を遅らせる. 男子性腺機能低下症では,病態,年齢,患者の希望を考慮した補充を行う.原発性では精子形成能の回復は期待できないので男性ホルモン補充により男性化や性機能の発来,維持を目的に行う.続発性(視床下部・下垂体性)では,男性化と造精能の両方の機能回復を目指して,自己注射によるhCG(LH作用)製剤,hFSH製剤によるゴナドトロピン療法を行う.これらが無効な場合,あるいは挙児を希望しない場合,男性ホルモンの補充療法を行う.女性性腺機能低下症は,障害部位と程度によって,排卵障害に対し,ドパミン製剤(高プロラクチン血症に対する)やクロミフェンを使用する場合やホルモン補充療法として第2度無月経や早発卵巣不全に対して行われるKaufmann療法,第2度無月経に対して行われるPincus療法,第1度無月経や多囊胞性卵巣症候群に対して行われるHolmstrom療法など様々である.性腺機能低下症患者では,性ホルモン製剤の補充開始前後に,女性患者では乳腺,婦人科臓器の定期的チェック,男性では多血症,睡眠時無呼吸症候群等の副作用の有無,前立腺等の定期的チェックを行う. 成人GH分泌不全症患者は,近年,肥満,脂質異常症などの心血管イベント発症リスクの増大による総死亡率の上昇や非アルコール性脂肪性肝炎のリスクなどが報告されている.現在,保険適用となっている重症型GH分泌不全症患者ではGH補充が望ましいが,高薬価に伴う患者負担や除外適用疾患(糖尿病,癌など)の併存などの問題もあり,選択医療の現状といえる.4)更年期診療 加齢変動を示すホルモンとそれに伴う症候を図1に示す.女性更年期障害に対するエストロゲン補充や加齢男性性腺機能低下症候群(late onset hypo-honadism:LOH)に対するテストステロン補充療法は,年齢,合併症,副作用,本人の意向等を総合的に判断して行われている.乳癌,子宮癌,前立腺癌を加療中もしくはその可能性のある患者では,性ホルモン補充療法は禁忌である.なお,GHも思春期をピークに加齢で減少するが,アンチエイジング医療としてのGH補充療法は保険診療上,また医学的にも浮腫や関節痛等の副作用の発現の多さに比して効果が乏しいとの観点から,現状としては推奨されていない.また,加齢に伴い低下する副腎性アンドロゲンのDHEAやDHEA‒Sの補充療法はサプリメントとしての補充は可能であるが,一般医療の段階ではない. 文 献 1) Hak AE, et al.:Ann Intern Med 2000;132:270‒278.736 内分泌疾患の治療―総論―(3)内分泌機能低下症におけるホルモン補充療法 ◉第2章総論図1更年期・老年期における主要な内分泌変動系下垂体骨密度の減少筋肉量の減少内臓脂肪蓄積健康感の消失骨密度の減少皮脂分泌の低下のぼせ発汗骨密度の減少内臓脂肪蓄積GHソマトポーズ女性更年期アドレノポーズLOHIGF-ⅠLH,FSHACTHテストステロンDHEA(-S)エストラジオールコルチゾール抑うつ状態筋肉量の減少骨密度の減少内臓脂肪蓄積

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