2295原発性免疫不全症候群診療の手引き
2/6

はじめに 原発性(先天性)免疫不全症候群(Primary immu-nodeficiency;PID)は,免疫系において重要な役割を果たしている免疫担当細胞や免疫担当分子の異常により,免疫系,特に生体防御機構に異常を呈する疾患である.免疫系には,1)T細胞やNK細胞による細胞性免疫系,2)B細胞による液性(抗体)免疫系,3)好中球やマクロファージによる食細胞系,4)補体系などがあるが,それぞれが独自に機能を発揮するとともに,相互に作用して生体防御機構を担っている.こうした免疫担当細胞や免疫担当分子の欠損,機能障害,相互作用障害,制御障害などにより原発性免疫不全症が起きる. もともとは,原発性免疫不全症は免疫系細胞や分子の欠損により生体防御機構の低下をきたす疾患のことであった.生体防御機構が低下すると,最も顕著にみられる臨床症状は易感染性である.易感染性とは,反復感染,重症感染,難治感染,持続的感染,日和見感染(通常では病原となり得ないような弱毒の病原体による感染)の5つのうちいずれかが存在する状態である.こうした易感染性のある患者を診療したときは,原発性免疫不全症を念頭に置くことが必要である. 最近,免疫担当細胞や免疫担当分子の欠損による生体防御機構の低下による原発性免疫不全症に加えて,免疫抑制分子の欠損による免疫系異常活性化による疾患,免疫調節障害による疾患,自己炎症性疾患も,免疫担当細胞,担当分子の異常による疾患,すなわち免疫異常症としてとらえ,原発性免疫不全症に含めるようになっている.実際に,国際免疫学会(International Union of Immuno-logical Societies;IUIS)の原発性免疫不全症の分類にもこれらの疾患が含められている.免疫抑制分子の欠如による疾患としては,C1 inhibitorの欠損症により補体系の異常活性化により起きる遺伝性血管神経浮腫(Hereditary angioneurotic edema;HANE)が代表的である. 免疫反応の制御異常が起きる疾患や免疫調節障害により自己抗体産生をきたす疾患も,免疫調節障害として原発性免疫不全症に含まれる.例えば,家族性血球貪食リンパ組織球増殖症(Familial hemophagocytic lymphohistiocytosis;FHL),X連鎖リンパ増殖症候群(X‒linked lymphoproliferative syndrome;XLP),自己免疫性リンパ増殖症候群(Autoimmune lymphoproliferative syndrome;ALPS),APECED,IPEXなどである.キラーT細胞やNK細胞による感染細胞などの排除機構の障害により発症する. また,最近,免疫系分子の機能喪失による免疫機能低下の他に,機能亢進変異による免疫異常により生体防御機構が低下する疾患も見出されている.例えばPI3K CDの機能亢進変異では,その下流のシグナル伝達系であるAKT‒mTOR‒S6の恒常的活性化が起こり,その結果アポトーシスに陥ることでT細胞機能,B細胞機能が低下する.すなわち免疫担当分子の機能亢進による原発性免疫不全症の存在が明らかにされた. 以上のように,原発性免疫不全症の概念は,原因遺伝子同定,病態解明などにより,以前と疾患概念が変わってきている.こうした疾患概念の変化に応じ,後述のように,国際免疫学会(IUIS)が原発性免疫不全症の分類(IUIS分類)を作成している. 原発性免疫不全症は,種類が300以上あり,ま原発性免疫不全症のIUIS分類2Ⅰ 総論序章 原発性免疫不全症候群防衛医科大学校小児科学講座 野々山恵章 原発性免疫不全症候群(PID):総論

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る