2295原発性免疫不全症候群診療の手引き
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た毎月のように新しい原因遺伝子が同定されている.こうした中で,すべての疾患を把握することは困難である.そこで,多岐にわたる原発性免疫不全症を理解しやすくするために,国際免疫学会原発性免疫不全症専門委員会が2年に1回,原発性免疫不全症の分類を行い論文発表している1).この分類(IUIS分類)は,原因遺伝子の機能や,疾患の病態,特徴的な所見などをもとに,できるだけ統一的にかつ漏れがないようにされている国際標準の分類である.また疾患の簡単な記載,OMIM番号も入れ,診断の際に役立つように工夫されている. 2015年の最新のIUIS分類は2015年11月に公表された.以下のTable 1からTable 9までに分類されている.本書では,TableごとにChapterとして解析した. Table 1:複合免疫不全症 Table 2:免疫不全を伴う特徴的な症候群 Table 3:抗体産生不全症 Table 4:免疫調節障害 Table 5:食細胞数・機能の先天障害 Table 6:自然免疫異常 Table 7:自己炎症性疾患 Table 8:補体欠損症 Table 9:原発性免疫不全症の表現型をとる疾患 以下に,Table 1~Table 9について概説する.なお,本書各論ではTable 7の自己炎症性疾患,Table 9の原発性免疫不全症の表現型をとる疾患は割愛している.Table 1:複合免疫不全症 Table 1の複合免疫不全症は,細胞性免疫と液性免疫の両方が障害されている原発性免疫不全症である.Tリンパ球の異常による細胞性免疫の障害に加え,Bリンパ球へのTリンパ球の補助が障害され液性免疫の異常も伴う.また,Bリンパ球の発生障害が伴う病型もある. 特に重症な疾患を重症複合免疫不全症(Severe combined immunodeficiency;SCID),やや軽度な疾患を複合免疫不全(Combined immunodeficiency;CID)とよぶ. SCID,CIDの病因としては,以下のものが知られている.1) T細胞発生に必要なサイトカインのシグナル伝達に重要な役割を果たすγc鎖,γc鎖からのシグナルを下流に伝えるチロシンキナーゼであるJAK3,T細胞の発生に重要なIL‒7のレセプターであるIL‒7レセプターα鎖の異常.γc鎖異常によるものはX連鎖重症複合免疫不全症(X‒SCID)である.2) T細胞レセプターやB細胞レセプターなど抗原受容体の遺伝子再構成に関わる分子であるRAG1/RAG2,Artemis,Lig IV,Cernunnos,DNA PKcsの異常によるもの.3) T細胞の分化,活性化に関わるPreT細胞レセプター・T細胞レセプターのシグナル伝達に関わるCD3γ,CD3δ,CD3ε,CD3ζ,CD45,ZAP‒70の異常,カルシウムチャンネルであるORAI‒1,カルシウムセンサーであるSTIM‒1の異常.T細胞活性化を起こすMHC classⅠ,ClassⅡの欠損.4) 胸腺からの流出に関わるCoronin‒1の異常によるもの.5) アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症,PNP欠損によるアポトーシスの亢進.6) 好中球減少を伴うSCIDとして細網異形成症がありAK2が原因遺伝子である.7)その他の複合免疫不全症(CID) なお,CD40 ligand欠損症,CD40欠損症は,以前はIgG低値,IgMが正常ないし高値をとることから高IgM症候群としてTable 3の抗体産生不全を主とする疾患に分類されていたが,細胞性免疫不全を呈することが明らかにされ,複合型免疫不全に分類されている.ただし,高IgM症候群の中でもAID異常,UNG異常によるものは液性免疫不全を主とする疾患に分類されている.また,IgMが高値を取らない場合もある.これらのことから,高IgM症候群という名称はIUIS分類では使われなくなったが,本書では広く使われている高IgM症候群(HIGM)として解説した.Table 2:免疫不全を伴う特徴的な症候群 Table 2には免疫系以外の特徴的な異常や症候を伴う複合免疫不全症である.第2章に掲載されている疾患も複合免疫不全症であり,第1章の複❖ 以下,本書で取り上げた疾患に下線を引いている.3原発性免疫不全症候群(PID):総論序章原発性免疫不全症候群

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