2300小児腎臓病学 改訂第2版
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各論第1章糸球体疾患3特発性ネフローゼ症候群1定義・概念ネフローゼ症候群は,糸球体毛細血管障害の結果,高度蛋白尿,低蛋白血症と全身性の浮腫が起こる病態の総称である.欧米では1年間に小児10万人に2人が発症するとされているが,最近の調査で,わが国では1年間に小児10万人に6.5人が発症することが明らかとなった1).小児ネフローゼ症候群の約90%は原因不明な特発性ネフローゼ症候群である.2病因・病態1)病因●a液成因子1974年,Shalhoubは,微小変化型ネフローゼ症候群はT細胞によって産生された糸球体毛細管透過性亢進作用をもつ液性因子(lymphokine)が原因ではないかと提唱した.この仮説は,微小変化型ネフローゼ症候群が,①細胞性免疫に影響を与える麻疹の罹患によって寛解すること,②副腎皮質ホルモンやシクロホスファミド治療に反応すること,③Hodgkin病の治療に伴いネフローゼ症候群が寛解し,その再発とともにネフローゼ症候群も再発することなどに基づいている.この仮説が発表された後,その液性因子を同定しようとする多くの試みがなされてきた.これまで,微小変化型ネフローゼ症候群の原因となる液成因子として,VPF(血管透過性因子),IL-13,TNF-a,ヘモペキシンなどが報告されているが,いまだに確定にはいたっていない.さらに,後述するが,最近,難治性頻回再発型/ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対して,B細胞表面抗原CD20に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブが有効であることが示され,ネフローゼ症候群の発症や再発にはT細胞だけでなくB細胞も関与する可能性が高いと考えられるようになった.一方,ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の代表格である巣状分節性糸球体硬化の病因物質に関する研究もさかんに行われ,suPARやCLC-1などが病因物質として報告されたが確定にはいたっておらず,今後,この方面での研究の発展がまたれる2).●b遺伝子異常1990年代後半からヨーロッパを中心に行われた遺伝性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の原因遺伝子探査の結果,本症候群の原因遺伝子が次々と明らかになっており,40を超える原因遺伝子が報告されている(表1).小児期に発症するステロイド抵抗性ネフローゼ症候群は一般に常染色体劣性遺伝で,早期発症で腎不全への進行も早い重症型の臨床経過を示すことが特徴である.常染色体劣性遺伝のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群原因遺伝子(括弧内:コードする蛋白)としては,NPHS1(nephrin),NPHS2(podocin),LAMB2(lamininb2),PLCE1(phospholipaseCepsilon-1),NUP107(Nucleoporin,107-KD)などが代表である.ヨーロッパの1歳以下ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群80例の変異解析によると,NPHS1,NPHS2,WT1,LAMB2の変異が,原因の2/3を占めることが報告されている.これに対し常染色体優性遺伝を示すステロイド抵抗性ネフローゼ症候群疾患遺伝子は,一般に成人発症で緩徐に進行する臨床像を呈し,巣状分節性糸球体硬化の組織像を呈することが多く,ACTN4(a-actinin-4),CD2AP(CD2-adaptorprotein),TRPC6(transientreceptorpotentialchannel),MYH9(myosinheavychain9),IFN2(invertedformin2)などがある.また優性の遺伝子の中に,小児期ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群と腎外症状の合併を伴うものがあり,LMX1B(LMX1B,骨軟骨形成異常を合併),WT1(WT1,尿路生殖器系の分化異常)が知られている.遺伝性ネフローゼの原因遺伝子産物の大半は濾過障壁を構成するスリット膜の構造の維持にかかわるという性質をもつが,スリット膜を構成する蛋白,ポドサイト骨格を構成する蛋白,ポドサイトの恒常性第1章糸球体疾患218

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