2312アルポート症候群診療ガイドライン2017
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392 各 論内服を行った.結果として蛋白尿の有意な減少は投与期間終了時まで継続し,その減少幅には2群間で有意差を認めなかったと報告している2).これらの研究では登録患者におけるアルポート症候群の遺伝形式についての記載はないものの,X連鎖型アルポート症候群の頻度(80%程度)を考慮すると,男性X連鎖型アルポート症候群におけるRA系阻害薬の蛋白尿量減少効果については強いエビデンスがあるものと判断した.また,腎機能障害の抑制に関しては,2012年にGrossら3)が283人のアルポート症候群患者(うちX連鎖型男性患者209名)をRA系阻害薬の内服がなかった群(noT)とRA系阻害薬の内服を行っていた群に分け,後方視的に解析した結果を報告している.さらにRA系阻害薬内服群は,内服開始時の患者の状態によって血尿および微量アルブミン尿群(T-1),顕性蛋白尿群(T-2),腎機能障害合併群(T-3)で分けられた.平均20年以上の観察期間において,腎代替療法の導入年齢中央値は,noT群で22歳,T1群では導入症例なし,T-2群で40歳,T-3群で25歳となり,内服群において有意な腎予後延長効果がみられたと報告している.さらに,15家系の兄弟例の解析では,兄弟で同時に治療を開始した場合には遺伝的背景が同じであるにもかかわらず,年長児と比べ,年少児において腎代替療法導入年齢が13年遅いという結果となった.これらの結果を総合し,筆者は蛋白尿が出現する以前の早期からRA系阻害薬を内服することで腎機能障害の進行を抑制し,腎予後を延長すると結論づけている. また,2000年および2004年にProesmansらは,単一施設で行った連続した研究4,5)において,平均年齢10歳のアルポート症候群患者10例(うちX連鎖型8例,男女比9:1)に対してACE阻害薬(エナラプリル)投与を行った.その結果,2年後および5年後の時点で有意な尿蛋白減少効果を認めたと報告している.一方,単一施設の研究ではあるが,2002年にAdlerらは腎機能障害のない平均年齢8.6歳アルポート症候群患者11例(遺伝形式不明,男女比5:6)に対して2週間のACE阻害薬(エナラプリル)の投与を行ったものの,尿蛋白減少は認められなかったと報告している6).ただし,これは他の研究と比較し内服期間が2週間と短いことや,投与量が0.2mg/kgと他の研究と比較し少ないことが影響している可能性がある. 以上より,RA系阻害薬がアルポート症候群患者の尿蛋白量を減少させる効果があることに関しては強いエビデンスがあると判断した.一方で,腎機能障害抑制効果に関しては観察研究が1編存在するのみである.しかし,糖尿病性腎症やIgA腎症などにおいても腎機能障害の進行抑制効果がある点,海外のガイドラインa)でもその使用を積極的に勧めている点を考慮し,推奨の強さを1とした. RA系阻害薬のうち,ACE阻害薬を用いるか,ARBを用いるかについては,前述のRCT2)において蛋白尿減少効果が両者で有意差を認めなかったことを踏まえ,本ガイドラインでは特別な推奨はしない.また,別の観察研究7)では,ACE阻害薬単独治療群とARB併用群で尿蛋白の減少効果に有意差は認めず,ACE阻害薬とARBは同等に有効であると結論づけられている.また,ACE阻害薬としてはエナラプリルを使用した研究が多いが,それ以外のACE阻害薬としてはラミプリル3)が使用された研究も報告されている.ARBに関しては具体的な薬剤名が記載されている場合はロサルタンの使用される頻度が高い. また,RA系阻害薬の内服開始時期については,これまで十分な検討がされていない.前述の介入研究はすべて蛋白尿陽性のアルポート症候群に対して行われたものである.海外のガイドラインa)ではアルポート症候群男性患者のRA系阻害薬開始時期について詳細な記述はないものの,蛋白尿出現以前に投与を開始することで腎生存期間の延長が期待できる可能
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