2312アルポート症候群診療ガイドライン2017
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412 各 論 女性のX連鎖型アルポート症候群におけるRA系阻害薬の有効性を比較検討した論文は2012年の後方視的検討と2011年のRCTのみである.Temmeらの報告は後方視的検討であるためバイアスリスクを含む可能性は否定できないが,RA系阻害薬投与と腎代替療法開始時期に非常に強い相関性を有しており,十分なエビデンスがあると判断した.2011年に報告されたRCTにおいては女性例の症例数が少なく,遺伝形式も不明であり,男性例を含む解析であったことから十分なエビデンスを有していないと判断した.また,海外におけるガイドラインa)でもX連鎖型アルポート症候群女性患者にRA系阻害薬使用は推奨されていることも鑑みて,本ガイドラインでもRA系阻害薬の投与を推奨する. アルポート症候群に対するRA系阻害薬の治療効果を検討した報告のうち,X連鎖型アルポート症候群女性患者における大規模な検討は2012年のTemme1)らの報告のみである.彼らは遺伝子検査または腎生検によって診断されたX連鎖型アルポート症候群女性患者または,常染色体優性型アルポート症候群患者において,RA系阻害薬投与群111人と無治療群124人で腎代替療法の開始時期についての後ろ向きコホート研究を行った.その結果,治療群において腎代替療法開始年齢は有意に遅延し(p<0.0001),さらに,X連鎖型アルポート症候群の女性患者170人のみを対象としたサブグループ解析においても同様の結果が示された(p<0.0001).この報告は後方視的検討ではあるが,X連鎖型アルポート症候群女性患者におけるRA系阻害薬と腎機能障害進行抑制において非常に強い相関性を示したものであり,エビデンスレベルは高いと判断した. この他に,女性を含むアルポート症候群におけるRA系阻害薬の有効性を示した論文としてWebbらによる2011年のRCTが1編存在する2).この報告では,プラセボ群とRA系阻害薬治療群における尿蛋白減少効果について比較検討しており,治療群における有意な尿蛋白減少が示された.しかし,治療群とプラセボ群の合計30例のうちで女性は9例であり症例数が非常に少ないこと,これら女性症例の遺伝形式は不明であること,女性だけを対象としたサブグループ解析も行われなかったことから,このRCTはX連鎖型アルポート症候群女性患者におけるRA系阻害薬の治療効果を評価する有用なエビデンスとはならないと判断した. 以上から,本ガイドラインではX連鎖型アルポート症候群の女性患者においてRA系阻害薬は腎機能障害抑制に有効であり,投与を推奨する.ただし,女性患者におけるX連鎖型アルポート症候群のエビデンスレベルの高いRCTはいまだ存在せず,今後の検討が望まれる. RA系阻害薬の投与開始時期においては,女性のX連鎖型アルポート症候群における検討報告はいまだない.X連鎖型アルポート症候群の女性患者における臨床症状は,40歳までに末期腎不全にいたるのは全体の10%であり男性患者に比べ進行が遅いが,その一方で蛋白尿や高血圧は末期腎不全への早期進行のリスクファクターである3).よって,本ガイドラインでは海外のガイドラインと同様a),血尿に加えて蛋白尿や高血圧を呈する患者においてRA系阻害薬を開始することを提案する.また,RA系阻害薬は催奇形性があり,挙児希望の女性においては計画的投与が必要である. RA系阻害薬のうちACE阻害薬かARBのどちらを使用するかについては明確な差を示すエビデンスは存在せず,CQ1と同様に特別な推奨は行わないこととした.エビデンスの要約解説

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