2316臨床遺伝学テキストノート
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viii本書の使い方 特 徴・医学教育モデル・コア・カリキュラム平成28年度改訂版をもとに作成されています.・ ゲノム医学,遺伝医学が一般的な医療となった現代,医師にとって必要な臨床遺伝学の知識を習得し,臨床で活かすことを目標に編集されています. 構 成・ 講義,コラム,別冊付録1〈臨床遺伝学を学ぶための基礎知識〉,別冊付録2〈コミック あなたのそばに~臨床遺伝学が役立つとき~〉から構成されています.・講義はBasic篇とAdvanced篇に分かれています.・ Basic篇では「遺伝性疾患の病態」について,Advanced篇では「遺伝医学の臨床応用」について学ぶことができます.  途中からでも読むことができますが,できるだけ前から順番に読んでください.系統的に臨床遺伝学への理解が進みます.10症例症例母性フェニルケトン尿症の管理 30歳,女性 挙児希望 弟が2人いる.2歳年下の弟もフェニルケトン尿症(phenylketonuria:PKU)と診断されている.専門学校を卒業後,介護士として勤務している.現在も食事療法を継続していて,血中フェニルアラニン(Phe)値は10 mg/dL(600 nmol/mL)前後で維持されている.4歳年下の弟は健常である. 新生児マススクリーニング(生後5日目で採取)にて血中Phe値が15 mg/dL(900 nmol/mL)のため,即精密検査として,生後12日目に精密検査指定病院を受診した.初診時の血漿Phe値は25 mg/dL(1,500 nmol/mL)のため,入院にてPhe制限療法(Phe除去ミルクの飲用)が開始された.入院2週間で血漿Phe値が3 mg/dL(180 nmol/mL)前後でコントロールされ,退院となった.退院後も母乳とPhe除去ミルクの併用で乳児期の血漿Phe値は2~4 mg/dL(120~240 nmol/mL)を維持できた.幼児期以降もPhe除去ミルクとタンパク質制限食にて年齢相当の基準値内でコントロールできた.小学校・中学校の給食は牛乳をお茶に置き換え,献立表を事前に入手し食べられそうなタンパク質の少なめの献立を選び,タンパク質が多めの時には弁当を持参した.高等学校,大学は弁当持参であった.大学卒業後,出版社に就職した.28歳で結婚し,退職した. 今回,挙児を希望し,パートナーと来院した.この時の血漿Phe 値は12 mg/dL(720 nmol/mL)であった.症 例主 訴家族歴現病歴         常染色体劣性疾患の遺伝の仕組みを説明し,代表的な疾患をあげることができる民族による疾患頻度の違いが存在することを説明できる学習のポイント講義第1Basic篇Ⅰ常染色体劣性遺伝(AR)13第1講義常染色体劣性遺伝(AR)第1講義常染色体劣性遺伝(A‌R)b. 蓄積物質を正規の経路以外を用いて体外に排出する 尿素回路異常症では高アンモニア血症をきたす.フェニル酢酸ナトリウム,安息香酸ナトリウムを利用して,代替経路にてアンモニアを排泄させる(図4).これらで対処できない場合には,積極的に血液浄化療法(持続血液濾過透析療法など)を実施する.c. 活性の低い酵素の活性を少しでも上げる いくつかの酵素は補酵素としてビタミン類を必要とするものがある.ホモシスチン尿症(シスタチオニンβ合成酵素欠損症)においてp.I237T変異をもつ症例では大量のビタミンB6に反応する.また,PKU(および高フェニルアラニン血症〈hyperphenylalaninemia:HPA〉)において,多量のテトラヒドロビオプテリン(BH4)でデータ・症状の改善がある一群がある(BH4反応性Phe水酸化酵素欠損症,図2).シャペロン療法もこの範疇に入る.d. 正常酵素を足す・生体で産生できるようにする ムコ多糖症(Hハーラーurler病,Hハンターunter病,Mマロトー・aroteaux- Lラミーamy病,Sスライly病),Gゴーシェaucher病,Pポンペompe病,Fファブリーabry病では酵素補充療法が保険適用になっている.組換え遺伝子工学的に製造された正常酵素を投与(多くは静脈内投与)して,病的細胞に取り込ませ蓄積物質を軽減させる. カルバミルリン酸合成酵素(carbamoyl-phos-phate synthase 1:CPS1)欠損症,オルニチントランスカルバミラーゼ(ornithine transcarbamy-lase:OTC)欠損症,メープルシロップ尿症などでは肝移植療法が,Hurler病,Hunter病,副腎白質ジストロフィーなどでは造血幹細胞移植療法が適応とされる. 遺伝子治療が近年再評価され,副腎白質ジストロフィーなどで成功例が報告されている.先天代謝異常症の治療戦略図3物質B物質B物質B物質C物質A物質Aa.蓄積物質の原材料の代謝経路への流れ込みを減らす 食事療法,基質合成抑制療法b.蓄積物質を 体外に出す 透析 代替経路の活用c.活性の低い酵素でも極限まで 働かせる 補酵素補充,シャペロン療法d.足りない酵素を足す 酵素補充療法 移植療法(肝移植,骨髄移植) (遺伝子治療)e.不足した物質を補充する 食事療法 エネルギー,糖分用語解説         シャペロン療法▶シャペロンとは本来,介添人を意味する.あるタンパク質の機能発現に必要な過程を助ける介添役のタンパク質を分子シャペロンとよび,分子シャペロンを用いた治療法をシャペロン療法という.神経難病の新しい治療として開発が期待されている.Basic篇では「遺伝性疾患の病態」について,Advanced篇では「遺伝医学の臨床応用」について学びましょう本文を読んで知識を得て…一部の講義は別冊付録2を参照する内容となっています重要な語句には用語解説があります冒頭に症例を提示しています症例から臨床的な課題を考えましょう気づいたことはノート欄に記録しましょう

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