2316臨床遺伝学テキストノート
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139第11講義出生前診断第11講義出生前診断先天異常について 先天異常は様々な原因によって生じる(▶p.130第10講義,図).染色体不均衡や単一遺伝子異常といった遺伝情報を原因としたもの,催奇形因子などの環境要因,そして単一の原因によるものではない多くの因子がかかわるものなど多岐にわたることが知られている.また,ヒトの個性や特徴と先天異常の境界は曖昧であり多様性として理解することができる.近年の分子遺伝学の発達によりヒトゲノムの0.1%ほどは個々人で違いがあることがわかり,ヒトの遺伝情報はそもそも非常に多様性に富み,「正しい」遺伝情報というものは存在しないことが明らかとなった.何らかの遺伝情報の変化を背景とした個性はある環境においては障害となるかもしれないが,別の環境においては生存にとって有利に働くこともある.また,本質的には障害をもっていることと人の幸・不幸とは関係がない.染色体の不均衡は先天異常の原因の約25%を占め,21番,18番,13番トリソミーがその70%ほどを占める.Robertson型転座によるDown症候群について 本講義で扱う対象疾患は染色体異常症の1つであるDown症候群(▶p.54第5講義)である.出生前診断においては実際に罹患者を目の前にしていないため,イメージがつかみにくく,誤ったイメージをもつことがある.どの対象疾患でも同様であるが,その疾患の自然史について中立的に十分情報提供することが重要である.Down症候群は21番染色体が3本ある(3本分の情報がある)ことで生じ,トリソミー型(96%),転座型(3~4%),モザイク型(1~2%)がある.本講義では転座型のうちRobertson型転座に関連するものを扱う. Robertson型転座とは13,14,15,21,22番のように染色体の短腕がごく短く,その部分を失っても問題とならない染色体(端部着糸型染色体)のうち2本が短腕を失って相互に接着した(転座した)状態をいう.一般集団で1/1,000の確率といわれている.組合せは15通りあるが,13番と14番の組合せder(13;14)が一番多く3/4を占める.次いで14番と21番の組合せder(14;21),21番同士の組合せder(21;21)が多く,それ以外はまれである. 症例のder(14;21)について解説する.この女性の染色体核板は図1であり均衡型Robertson型転座保因者とよばれる.通常の形の14番染色体と21番染色体はそれぞれ1本ずつであり14番と21番が転座した染色体(派生染色体という)が1本ある(図1,図2).全染色体数は45本であるが,この派生染色体は1本に14番染色体と21番染色体の情報をもつために1つの細胞の中の情報総量は46,XX正常核型と同じである.次に,この女性が母として子をもつにあたり配偶子(卵子)をつくる際のことを解説する.図2で示した母の14番と21番にかかわる3本以外の染色体はすべて2本ずつあるために1本ずつに分かれる.しかし,14番染色体と21番染色体はこのような状況にあるためいったんこの3本が集まり(対合し),1:2に分かれるがそのパターンは3通りとなる(図2).それぞれが正常核型(46,XY)の男性由来の12         

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