2316臨床遺伝学テキストノート
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28臨床遺伝学テキストノート[別冊付録1] ―臨床遺伝学を学ぶための基礎知識―12出生前診断出生前診断とは出生前診断の基本的な概念は,妊娠中に胎児が何らかの疾患に罹患していると思われる場合や,胎児の異常は明らかではないが何らかの理由で胎児が疾患を有する可能性が高くなっていると考えられる場合に,その正確な病態を知る目的で診断を行うことである.出生前診断には医学的,社会的,倫理的に留意すべき課題が多く,遺伝カウンセリングを行ったうえで実施することが大切である.ここでは出生前診断として行われる検査として,羊水検査,絨毛検査,母体血清マーカー検査,超音波検査,着床前診断について概説する.羊水検査・絨毛検査羊水や絨毛を採取することで胎児由来細胞が得られ,染色体検査,遺伝子解析,生化学的分析する侵襲的な確定的な検査法で,1970年頃よりはじまり,超音波機器の普及で安全に行われるようになってきている.本検査は,説明と同意のうえで安全性を考慮し,羊水検査は妊娠15~17週頃,絨毛検査は妊娠11~13週頃に行う.羊水採取は経腹的に行い,絨毛採取は経頚管的・経腹的採取法があり,いずれも経腹超音波ガイド下に採取する.合併症として,破水,感染,子宮収縮,出血,流産,胎盤早期剝離などがあり,羊水検査では0.3~0.5%,絨毛検査では2~3%に流産となるリスクがある.また,絨毛検査では約1%に染色体モザイクが検出され,そのほとんどは絨毛組織内にのみ限局する異常染色体数細胞によるモザイクである.羊水や絨毛による検査方法としては,染色体分析,マイクロアレイ分析,遺伝子解析(uores-cence in situ hybridization:FISH法,polymerase chain reaction:PCR法)(▶コラム3~6)などがあり,検査でわかる胎児の疾患は増加傾向にある.また,羊水・絨毛だけではなく母体血を用いた全エクソーム解析,全ゲノム解析による胎児診断が近年研究されており,倫理的な問題があり遺伝カウンセリング充実の重要性が指摘されている.母体血清マーカー検査母体血清マーカー検査は,1994年に海外より導入され,胎児が21トリソミー,18トリソミー,開放性神経管閉鎖不全症に罹患している確率を出す非確定的検査である.妊娠15~17週に母体血を採取し,血清中の胎児あるいは胎盤由来ホルモン,タンパク質を生化学的に解析する出生前に施行される検査である.結果としては,胎児が21トリソミーである確率は○○分の1といったような確率で表され,実際にはカットオフ値を設定して考え,羊水検査など確定診断をするかどうか決めることになる.超音波検査妊娠中の超音波検査は,1970年代から普及している.医用超音波機器は通常は母児に対して非侵襲的であり,一般的な妊婦健診として日常診療で使用されている.ここでは出生前における画像診断としての超音波検査について,妊娠初期と中期以降に分けて述べる.妊娠初期妊娠初期の超音波検査としては,子宮内の妊娠かどうか,胎児数,生存しているかどうか,妊娠週数はあっているかなどの確認が大切である.また,胎児無頭蓋症は初期スクリーニングとして重要である.胎児NT(nuchal translucency)は胎児の後頚部透亮像で,妊娠11~13週頃に測定し,Dダウンown症候群や先天性心疾患などのスクリーニングとして行われている.妊娠中期以降妊婦健診の時に超音波検査は行われており,基本検査としては,胎位,推定体重,羊水量,臍帯や胎盤の位置などを確認している.超音波によるスクリーニング検査は,胎児の形態異常を検出するものであり,その重症度を判断して,妊娠中の管理,分娩様式,出生児の方針などを決めるためにより正確な診断が求められる.胎児形態の標準的な超音波検査で,頭部・顔面・頸部,胸部,腹部,脊椎,四肢,性別などをスクリーニングする.近年,超音波機器の進歩により精度が高まり,出生前に診断されるケースが増えてきている.超音波検査以外の胎児画像診断としては,胎児MRIと胎児CTがあり,超音波診断が困難な場合

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