2317SHOX異常症
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Ⅰ.SHOX研究の背景と歴史3域および長腕末端の約320 kb領域は,X染色体とY染色体の間で同一の塩基配列から構成され,擬常染色体領域(pseudoautosomal region;PAR)とよばれる(しばしば,「偽」という言葉が用いられているが,筆者は,「擬」という言葉を用いている.これは,このPARが,「偽りの常染色体領域」ではなく,男性減数分裂時に組み換えを生じる「あたかも常染色体のように振る舞う染色体領域」であるという考えに基づく).短腕と長腕のPARの間は,X染色体分化領域あるいはY染色体分化領域とよばれ,X染色体分化領域はX染色体固有の領域とX‒Y相同領域から,Y染色体分化領域はY染色体固有の単一配列あるいは反復配列領域とX‒Y相同領域から構成される.そして,X染色体固有の領域に存在する遺伝子は原則的にX染色体不活化を受け,X‒Y相同領域に存在する遺伝子は原則的にX染色体不活化を逃れることで,男女間の遺伝子量を同等に保っている. この構造は,古代性染色体(これは,ほぼ現在のX染色体長腕に相当し,X染色体不活化中心を含む)に常染色体が転座し,その後,遺伝子量補正の淘汰圧により,X染色体に転座した常染色体が女性では次第にランダムX染色体不活化を受けるというプロセスと,Y染色体に転座した相同領域が次第に脱落するというプロセスを繰り返すことで形成されていったとされている.したがって,現在のX染色体は,X染色体長腕から短腕近位部の古代X染色体と,X染色体短腕遠位部に向かうにつれて進化的に新しくなる近代X染色体から構成される.また,Y染色体の進化では,精巣特異的な発現を示す遺伝子が重複を繰り返し,精子形成能の向上に有利に作用している.そして,いくつかの遺伝子は,X染色体の不活化を受けず,また,Y染色体から脱落することなく,X‒Y相同遺伝子としてX染色体分化領域とY染色体分化領域に残存したと考えられている.このX‒Y相同領域の分布の複雑さは,Y染色体で少なくとも数回の逆位が生じていることを示唆する. そして,最も進化的に新しく転座した常染色体成分が,短腕擬常染色体領域(PAR1)としてX‒Y相同領域のまま残されている.事実,PAR1直近のX染色体分化領域に存在する遺伝子は,現在においても部分的にX染色体不活化を逃れ,また,Y染色体長腕近位部に逆位移動したその相同領域の遺伝子はpseudogenesとしてY染色体から脱落することなく保存されている(例えば,Xp22.3のKAL1遺伝子とYq11.2のKALP遺伝子が代表例であり,KALP遺伝子は,KAL1遺伝子に対して欠失・挿入・塩基置換が生じることで機能を失っている).なお,長腕擬常染色体領域(PAR2)は,L1配列(ヒトのゲノム上で約1万個存在する6 kb以下の塩基配列)における非相同組み換えを介してX染色体からY染色体に転座して形成されたと考えられている.このPAR2上の遺伝子は,男女ともに2コピーの活性型として存在するもののみならず,X‒Y相同領域に存在する遺伝子としては例外的にX染色体の不活化とYヘテロクロマチンの位置効果による不活化のために,男女ともに1コピーの活性型として存在するものが認められる. 上記のように,PAR1は,最も新しく性染色体に付加された領域であり,現在もなおX染色体とY染色体間で均一性を残している.この領域の遺伝子は,常染色体上に存在していた時代擬常染色体領域の進化2

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