2324膵外分泌不全診療マニュアル
2/6
2 近年,膵機能不全患者に対する膵酵素補充療法が広く行われるようになってきたが,その適応,予後の問題は未解決である. ところで,わが国では従来,膵酵素製剤投与の適応は「消化異常症状の改善」という漠然とした症状が目的であり,またこれが保険病名であった.故石川 誠先生は,同病名のほかに膵外分泌不全に対して,日本薬局方パンクレアチンの大量療法,すなわち40 g/日もの大量投与で脂肪消化吸収が改善することを1964年にすでに報告している1).しかし,糞便中脂肪排泄測定は普及せず,膵疾患は消化吸収を除いた診断面で研究がなされてきた. 一方,欧米では,1973年にDiMagnoら2)が,膵外分泌機能(リパーゼ分泌)が健常者の1/10以下に減少する(膵外分泌不全)と,100 g/日脂肪摂取下の糞便中脂肪排泄量は7 g/日を超え,いわゆる「脂肪便(steatorrhea)」になることを報告した.1986年には,ドイツでもLankisch3)が同様の報告をしている. わが国では,筆者らが1995年にパンクレオザイミン・セクレチン(P-S)試験で得られたアミラーゼ分泌量と,40~60 g/日脂肪摂取下の糞便中脂肪排泄量を比較検討した.その結果,アミラーゼ分泌量が健常者の15 %以下になると,脂肪便(糞便中脂肪排泄量 5 g/日以上)が認められることを報告した(図1)4).これらの結果から,膵外分泌のうちの膵酵素の種類,膵酵素予備能の量的関係,人種,食事摂取量などを問わず,脂肪消化の予備能は85~90 %であると考えられた. わが国における膵外分泌不全(脂肪便)に関する研究は,欧米に比して10~20年程度遅れているが,筆者らは1993年頃から膵外分泌不全という日本人膵疾患の病態に関する臨床的検討からの論文を投稿するようになった5-8).近年では「膵外分泌不全」という概念は定着しつつあるが,中には誤った理解も少なくない.誤りの原因の1つは食事療法のことであり,もう1つは膵消化の予備能検査のことである.食事の問題 膵機能不全患者の主体は,非代償期慢性膵炎および膵切除術後例(膵全摘,膵頭十二指腸切除,体尾部切除.原疾患はおもに膵癌,膵内胆管癌,嚢胞性膵疾患,慢性膵炎の疼痛除去等)である.また,わが国では嚢胞性線維症(cystic brosis;CF)は少ないが,無視できない疾患である9).❶ 脂肪制限 膵機能不全患者が食欲を有していれば食事,特に脂肪を30 g/日以下などと制限する必要はない.ところが,病院によっては,また主治医や(管理)栄養(Nakamura T, et al: J Gastroenterol 1995; 30: 79-83)糞便中脂肪排泄量とアミラーゼ分泌量との相関図1105005001,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0004,5005,000152025y=499.413x-0.7416:コントロール:脂肪便(化学的所見):脂肪便(肉眼的所見):非脂肪便r=0.7483035404550アミラーゼ分泌量(u/kg/時)糞便中脂肪排泄量(g/日)食事,消化吸収,栄養の三位一体中村光男 弘前市医師会健診センター所長/弘前大学名誉教授/東邦大学医学部客員教授1
元のページ
../index.html#2