2324膵外分泌不全診療マニュアル
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1 食事,消化吸収,栄養の三位一体3第1章 総論︱膵外分泌不全診療の基礎第2章 各論︱膵酵素補充療法の実際第3章 附録士によっては,膵機能不全は膵疾患と考え(すなわち,急性膵炎回復期,慢性膵炎再燃などと同じで),脂肪制限を行うべきという誤った考えが多い.しかし,膵疾患における食事は,膵疾患の病態,病期に応じて行うべきである.さらに,膵外分泌不全患者は一般に糖尿病(膵性)を合併することが多く,糖尿病食などの極端なカロリー制限食を指示される場合が多い. 膵疾患で脂肪制限を行う根拠として,脂肪摂取による膵臓痛の誘発があげられる.膵(胆嚢)を刺激する脂肪摂取量は食事1回当たり脂肪 20 g以上である.逆に1回の食事中脂肪を10 g以下10)にしたり,または30 g/日以下では脂肪によってコレシストキニン(CCK)分泌が誘発されづらく,膵臓痛(腹痛,背部痛)の発生は抑制されることが多い.❷ カロリー制限 もう1つの誤りやすい食事療法の考え方は,膵性糖尿病(pancreatic diabetes)におけるカロリー制限である.この場合,「糖尿病」という病名のために,1,200 kcal/日(脂肪35 g/日程度)などと指示されることが多い.しかし,筆者らは,通常の糖尿病患者よりも多めに指示することが多い.なぜなら,膵機能不全患者は栄養障害を伴うことが多いからである.膵外分泌不全の診断 膵外分泌不全の診断は正確でなければならない.現在わが国で用いられている膵外分泌機能検査のうち,保険診療で行えるのはpancreatic function diag-nostant(PFD)試験[ベンゾイル-L-チロシル-パラアミノ安息香酸(BT-PABA)試験]のみであるが,同検査は膵外分泌障害の検出を目的とした検査である.さらに,高齢者の腎機能障害[推定糸球体濾過量(eGFR)の低下],前立腺肥大,過活動膀胱,糖尿病性神経障害による膀胱機能障害などでは尿中パラアミノ安息香酸(PABA)の回収率が低下し,膵機能が正常でも膵外分泌障害と診断されることが少なくない11).極端にいえば,膵外分泌障害がなくても,腎・膀胱機能の状態によっては膵外分泌障害と診断されてしまう.さらに,eGFRは糖尿病の病期によって過剰濾過(hyperltration)になり12),それに伴って尿中PABA排泄量も多くなるため,膵外分泌機能の正確な診断はできない. 最も正確な膵外分泌機能検査は消化吸収の出納試験(balance study)(わが国では40~60 g/日脂肪摂取下)で,糞便中脂肪排泄量5 g/日以上で膵外分泌不全(脂肪便)と診断される4).測定には,van de Kamer法13)あるいはガス液体クロマトグラフィー(gas-liquid chromatography;GLC)法14)がおもな分析法として用いられる.糞便(3日間の蓄便)が煩雑な場合は,筆者らが確立したベンゾイル-L-チロシル-[1-13C]アラニン(13C-BTA)を用いた呼気試験11, 15)を利用するとよい. 慢性膵炎と診断された場合でも,食事による脂肪摂取量が少ないと脂肪便にならないこともある.食事による脂肪摂取量が40 g/日未満であれば,慢性膵炎患者の脂肪便出現率は28 %である.一方,40 g/日以上であれば,慢性膵炎患者の脂肪便出現率は56 %となる(糞便中脂肪排泄量が10 g/日以上の患者について検討すると,前者では8 %であるが,後者は37 %であった).すなわち,食事による脂肪摂取量が少なすぎると,慢性膵炎でも脂肪便になりにくい16). また,膵全摘患者(膵外分泌はほぼゼロ)に脂肪を40 g/日摂取させると,20 g程度は消化吸収されることもある(表1)15).脂肪摂取量(g/日)糞便中脂肪量(g/日)脂肪吸収量(g/日)膵全摘患者(n=3)45.1±8.825.4±7.419.7±1.6PD患者(n=5)47.0±8.419.1±9.327.9±8.8PD:膵頭十二指腸切除術.(Matsumoto A, et al: J Soc Med Applic Stable Isotope Biogas 2012; 4: 4-17)膵機能不全患者の脂肪吸収能表1
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