2324膵外分泌不全診療マニュアル
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1 食事,消化吸収,栄養の三位一体5第1章 総論︱膵外分泌不全診療の基礎第2章 各論︱膵酵素補充療法の実際第3章 附録のように考えて,処方されなくなっていることもしばしば経験される.膵酵素製剤には痛みがとれるような速効性がないため,効果の確認がむずかしいものと考えられる.したがって,医師は膵性糖尿病患者に対して,表3に示す対処をなすべきである.消化吸収不良は脂肪だけではない 膵性脂肪便がある場合,消化吸収不良は脂肪だけではないことが多い.消化吸収不良には,ほかに炭水化物,たんぱく質,コレステロール,内因性の胆汁酸などがある20-22).さらに顕性化することは稀であるが,脂溶性ビタミン23)をはじめ,水溶性ビタミン,微量元素欠乏なども不顕性に欠乏している可能性があることを考慮する必要がある. 脂肪の消化吸収には胆汁酸,モノグリセリド,脂肪酸によるミセル形成を必要とするため,膵酵素(リパーゼ)不足以外に上部消化管のpHも関係していることを念頭に置くべきである24-26).炭水化物,たんぱく質の(消化)吸収不良は脂肪便患者の約60 %にみられる20, 21).まとめ 食事療法,膵酵素補充療法,インスリン療法とも,いずれも予後を改善させるための手段であることを意識しなければならない.これらの方法によって,慢性膵炎の治療はほぼ満足のいくところまできたが,膵切除後の膵内外分泌不全の病態および治療の問題は,bacterial overgrowth syndrome(腸内細菌過剰症候群)を含めて,まだ十分に解明されていない. 栄養の悪い膵疾患患者では,まず食事調査が重要となろう.食事が不十分であれば増加させる.アルコールはカロリーとして計算するが,栄養とは考えない. 次に,食事が十分摂取された状態で,糞便量測定,臭いが強くないか,手術例では術前より糞便量が増加したか,慢性膵炎であれば痛みのある時期と比較して糞便量が増加したかなど,糞便の変化について問診するとともに,肉眼的観察27, 28)を行うべきと考える. 次いで,消化吸収機能,特に膵疾患では糞便中脂肪測定を行う.また,呼気中13CO2を測定する13C-BTAを用いた膵外分泌機能検査を行う.PFD試験(BT-PABA試験)は年齢と糖尿病合併症の影響を大きく受ける(すなわち,eGFR,膀胱機能等)29, 30).さらに同時に,体重変化,膵性糖尿病の有無と程度,血糖,HbA1c,グリコアルブミン,さらに蓄尿して尿糖量,尿中C-ペプチド濃度,尿中窒素の測定を行う. 最後に,食事が十分摂取されて膵機能不全があるなら膵酵素の補充,血糖上昇については,少量ずつインスリンを投与する(基礎分泌には持効型あるいは中間型インスリン,追加分泌には超速効型インスリンを補充する18)). 糖尿病罹病期間の長い患者では,自律神経機能(心電図RR間隔30)),胃排泄機能31-33),低血糖に対する症状の変化(いわゆるアドレナリン症状の欠如,中枢神経症状の出現等)に注意する34, 35).病態の情報はできるだけ患者にフィードバックすることが重要である. 本書では,折に触れてこれらの問題点について言及しているので,ぜひ参考にしていただきたい.■文  献■ 1) 石川 誠,他:内科的治療法(主として消化吸収面から).日消誌 1964;61:402-407. 2) DiMagno EP, et al: Relations between pancreatic enzyme ouputs and mal-absorption in severe pancreatic insufficiency. N Engl J Med 1973; 288: 813-815. 3) Lankisch PG, et al: Functional reserve capacity of the exocrine pancreas. Digestion 1986; 35: 175-181. 4) Nakamura T, et al: Steatorrhea in Japanese patients with chronic pancre-atitis. J Gastroenterol 1995; 30: 79-83. 5) 中村光男,他:膵外分泌機能不全の診断法の進歩と膵酵素補充療法の問題点.胆と膵 2016;37:123-128. 6) 竹内 正,他:薬の知識 パンクレリパーゼ.臨消内科 2012;27:383-386. 7) Nakamura T, et al: Short-chain carboxylic acid in the feces in patients with pancreatic insufciency. Acta Gastroenterol Belg 1993; 56: 326-331. 8) Nakamura T, et al: Pancreatic steatorrhea, malabsorption, and nutrition biochemistry: a comparison of Japanese, European, and American patients with chronic pancreatitis. Pancreas 1997; 14: 323-333. 9) 石黒 洋,他:小児における膵外分泌機能不全の診断と治療―嚢胞性線1  入院,外来通院中に糖尿病の病型(膵性糖尿病か),  膵外分泌不全の有無を明らかにする.2  紹介状には膵性糖尿病,膵外分泌不全のことをわか  りやすく書く.3  患者には糞便を自分で観察することを指示し,量, 臭い,性状について教える.4 「糖尿病」という病名で極端な食事制限を行わない.5  インスリン使用患者には,できるだけ血糖自己測定  (SMBG)を指導する.6  低血糖の症状,低血糖からの回復にはどうすればよ いかを細かく指導する.また,家族にも勉強してもらう.膵性糖尿病患者に医師がなすべきこと表3

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